「はいはい」
姉がぱたぱたとスリッパの音を鳴らしながら電話へと向かっていく。少したってから、新太を見つめ手招きをした。
「糸井美羽さん、だって」
「え!?」
「保留してあるから」
渡された子機を持ってリビングを出る。階段をのぼりながら保留ボタンを押した。心臓の音がうるさい。
「もしもし?」
『もしもし? 新太くん?』
「うん」
『急にごめんね。あの、糸井美羽です』
「ああ、うん。聞いた」
別に言わなくてもいいことを言ってしまい、自分の顔をはたきたくなった。だけど、美羽の声は明るい。胸の鼓動が落ち着いていく。
『さっきの、お姉さんだよね。優しそうな人だったの覚えてるよ』
「あれ? 知ってんの?」
『あ、ひどいな。新太くんと一緒に帰ったときに会ったことあるよ。あの公園で』
公園、というワードがでてきて言葉につまる。それを感じたのか美羽からの言葉も途切れた。
「あのさ」
『あのね』
同時に言葉を発してしまい、また気まずい沈黙に襲われる。最初に口を開いたのは美羽の方だった。
「新太くんさ、もしかしてあの後田辺くんに何か言ってくれた? さっき、電話がかかってきたの』
「え? 田辺って……あの男子?」
『うん。嫌なことしてごめん、もうしないって』
え、と言ってから、しばらくの間何も言えなかった。