小説

『ひらいてひらく』小山ラム子(『鶴の恩返し』)

「姉ちゃんさ、それなに見てんの?」
 うっかり涙がでそうになったので、あわててそんなことを聞いてみた。
「ほら、これ。鶴の恩返し」
「へ? あの昔話の?」
「そうそう。友達の妹がお芝居やるみたいでさ。で、その鶴の衣装作りを友達が手伝ってるみたいで、作業の様子が写真で送られてきてね。鶴が布に自分の羽を織り込む様子を再現するのが難しいらしくてさ。それで、どんな話だっけなーと思って検索してたの」
 スマートフォンを渡され、新太もあらすじを読んでみる。
 恩返しにきた鶴の姿が、美羽のイメージで再生された。
「さみしい終わり方だよな」
 独り言のようにこぼれ落ちた言葉を、姉がひろう。
「まあ、見るなって言われてたのを見ちゃったわけだしね」
 昼間のことを思い出す。
 美羽は仲良しであろうあの女子にさえ、男子からされた意地悪を話せずにいた。
 あの女子が文句を言ったところで、男子がからかいをやめるとは思えなかったからだろう。
 あの男子達が美羽に意地悪をしたんだと気づいたあのとき。
 さっきのようにぎゅっと自分の手を握りしめ、呼吸を落ち着け、気を静めて。
 その場ではなく、美羽が一人になったときに話を聞いてみればよかった。
 美羽が、今度は別の誰かに自分のことでからかわれるようになったらどうしよう。
 もっと、考えるべきだった。
 鳴り響く電話の音で、ハッと新太は顔をあげる。

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