男は、筆を止めた。名前を書き損じた事に気が付いたからだ。男は忌々し気に紙を掴むと、ぐちゃぐちゃに丸めて遠くへ投げ捨てた。 「せっかくあと少しだったのに……」 部屋の隅には書き損じた紙屑が山のように積まれ、溢れかえっている。男は筆を置くと、だらしなくそのまま床に横になった。 「まあ、いい。また明日にしよう」 小屋の外では、春を迎えた小鳥たちの美しいさえずりが響いている。 3/3 前のページ 9月期優秀作品一覧 HOME 1 2 3