あいつは相当強い。村人は俺や道場の先生を連れていった方が良かったなんて噂するが、それは間違いだ。本人が一番わかる。足手まといになるに決まっている。
けれど、もし・・・。
一抹の不安がよぎる。
「ねぇ、柿次郎・・・柿次郎ってば。」
気が付くと近所の子供たちが近くに寄ってきていた。
「どうした?」
「あのさ、桃太郎は帰ってこないの?」
「え?どうしてそう思うんだ?」
「だって、お母さんもお父さんも、それに近所の人達みんな言ってる。桃太郎はもう帰ってこないかもしれないって。ねぇどうして?鬼にやられちゃったの?」
「・・・そんなことない。桃太郎は絶対帰ってくる。」
「なんで分かるの?」
「・・・強いから。この村の誰よりも強いんだ。」
「柿次郎より?」
「そうだよ。俺なんかよりうんと強いんだ。だから大丈夫。必ず鬼を退治して帰ってくる。」
「絶対?」
「ああ、約束する。」
子供たちは顔がほころび、どこかに行ってしまった。
「・・・。」
そうだ、俺たち大人が不安になってちゃいけないんだ。
「おい!みんな逃げろ!鬼が出たぞー!」
突然の大声に周りに緊張感が走る。
「おい!鬼ってなんだ!?」
叫びながら走ってくる男を捕まえる。
「鬼は鬼だ!でかい鬼一匹だ!でかい金棒を持ってこっちに向かってきやがる。殺される前にみんな逃げろ!」
「・・・。」
体が硬直する。村人達が騒ぎながら一斉に逃げ出す。
なんだ?鬼ってなんだ?何十年も出てこなかったのになんで今出てくる?じゃあ桃太郎はどうした?やられたのか?それとも他の鬼が攻めてきたのか?
ぐるぐると思考が駆け巡る。
「いや、そうじゃない。し、真剣、真剣だ。」
必死に冷静さを取り戻し、急いで家に真剣を取りに戻る。
「俺が、俺がやらなくちゃ・・・。」
真剣を持つ手が震える。
ドシン!
すぐ近くで大きな地鳴りがした。
「・・・。」
たぶん、鬼だ・・・。
つばを飲み込む。
そして大きく息を吸い込み勢いよく外に出る。
「・・・。」
言葉が出なかった。
鬼は全身赤黒く七メールはあろうか思うほどの大きさだ。手には大きな金棒を持ちジッとこちらを睨んでいる。
「こ、こい、お、お、俺が相手になってやる。」
震える足や手を必死に抑えながら刀を構える。
ブォン!
鬼は大きく金棒を上に振りあげ、こちらめがけて振り下ろした。
「ひゃあ!」
間一髪のところで避けたが、金棒が地面を叩きつけた衝撃で体は吹き飛ばされ、家の壁に体を思いっきり打ち付けてしまった。
息が出来ない。肋骨かどこかは確実に折れたような感触がした。
こんなの倒せるわけがない・・・。