小説

『カメはミタ』あきのななぐさ(『浦島太郎(京都府)』)

 さらに、よくわからないという顔の老人をよそに、若者は自らの理解を掘り進めていく。

「そして、今は困っているわけだ。なるほどな! 大丈夫だ、爺さん! この村には古くからの伝統があるからな。『困ったときはお互い様』だ。安心していいぜ!」

 その老人の手を取り、若者はニコリとそう告げていた。

「もっとも、貧しい村だ。そんな贅沢はできないけどな。でも、爺さんも出来る事があったらやってもらうぜ?」

 まだよくわかっていない老人の手を引き、若者は村の方へと歩みだす。

――そうだ、もう少しこの先も見続けよう。
 
 その若者に手をひかれる老人の背をみて、私はそう感じていた。

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