小説

『キャンディチョコレートスナック』柿沼雅美(『お菓子の大舞踏会』)

 段ボールを解体し、お菓子の空箱を平たくして、包み紙はシワを伸ばし、紐やゴムはまっすぐに揃えた。それらをクリアファイルに綺麗に挟み、本棚に立てかけた。この袋のひとつひとつにメンバーの愛が残っているかと思うとゴミとして捨てる気なんてさらさらない。
 キッチンに行ってお茶をガブガブ飲むと、急に眠気が襲ってきて、ベッドに潜り込んだ。
 夢か現実か、メンバーたちの会話が聞こえてくる。
こんなふうにお菓子を詰めるなんてないよね、とキャラメルが言う。そうだね、これを全部食べてもらえたら嬉しいね、とドロップが言う。チョコレートは立ち上がって、新しい振り付け思いついた、と言うと、ウエハースが、それ超いい、とグッと親指をたてた。
 するとたちまち僕のお腹がキリキリと痛くなり、苦しい、と叫んだ。
 あれ?苦しい?とドロップが心配そうに言い、自分のせいだから仕方ないよね、とワッフルが笑った。ウエハースが今度は口笛をふき、ミンツがポーズを決め、キャラメルの手をとった。ワッフルはウサギの被り物をして、ドロップはピエロのようなシャツを羽織る。チョコレートが魔法のスティックをこちらへ向けて振り、ドーナツがタンバリンを叩くと、みんなが一斉に歌い出した。
 ドロップドロップ踊り出す
 ワッフルワッフルはやし立て
 キャラメルキャラメル笑い出す
 足どりおかしくチョコレート
 スポンジスポンジ飛び上る
 そこで君のポンポンが
 ミンツミンツ痛み出す
 僕は死ぬほど苦しくなって、もう勘弁して!助けて!助けて母さん父さん!と叫んだ。
 どうしたの!?と、母親に揺り起こされて目を開く。腹の中でお菓子が踊り狂っている、苦しい、と話した。わけわからない!と言いながらも、汗びっしょりの僕を心配して、母親が病院の診察券を探しに出て行った。
 食べすぎでこんなことになるだろうか。検索しようと力のない手でスマホを見ると、メンバーたちのSNSの通知と運営からの通知が届いていた。
 いつも応援ありがとうございます。本日ごく一部の方より、プレゼントが届いたというご連絡がございました。メンバー及び運営から個人的にファンの方へプレゼントをお送りすることはございません。現在調査中となりますため、そのようなものが届きました場合には開封等せず、次回公式報告をお待ちください。
 ドアの向こうで、食べすぎとかじゃないの?一体あんた何食べたの?と母親の声がし、僕はか弱い声で、キャンディチョコレートスナック…いや、愛を、愛を食べました、と答えた。

1 2 3 4