小説

『キャンディチョコレートスナック』柿沼雅美(『お菓子の大舞踏会』)

 急に部屋がノックされ、母親が入ってくる。
 「買い物に出るけれど何か必要なものある?」
 「ちょっと!仕事中なんだからノックして数秒は待てよ」
 デスクトップのキーボードを押して急いで画面をスリープさせる。
 「なに言ってるのよ。よくそんな働き方がつとまるわよね。まぁ時代っちゃ時代なのかもしれないけど、でも、仕事してるって言いながらそんな子供のお遊びみたいなもの見てるのバレたらあんたすぐクビだからねクビ!」
 母親はそう言ってドアをバンと閉じた。
 だからバレないようにうまくやっているんじゃないか、バレるバレないの前に仕事の進捗自体は順調なんだから問題ないだろ。だいたい何か必要なものないかと聞きに勝手に入ってきたくせにその返事も聞かないで行くなんて信じられない。
 ぶつぶつと言いながらデスクトップの画面を戻す。ちょうど優子ちゃんが最近の自宅での過ごし方を自撮りで紹介しているところだった。
 この、今ドはまりしているのは、キャンディチョコレートスナックというグループだ。コンセプトは子供から大人まで大好物のお菓子。メンバーそれぞれに担当菓子があって、色やキャラクターも決められている。
 玄関から、ドカッ!と大きな音がして思わず肩をすくめた。バイクでも突っ込んだか?マンションの3階なのに?と思いながら玄関を恐る恐る開ける。人間が入りそうな段ボールが置いてあった。置き配?こんな大型のもの注文した覚えがない。ましてスマホも電話機能しか使っていない両親がネットで買い物などできるはずがない。
 宛名は僕宛になっていた。送り主の住所は書かれていないが、送り主は、CandyChocolateSnackとなっていた。
 え?ええええ?なに?まじでなに?と動揺しながらも段ボールを玄関から部屋の中に押し込んだ。段ボールの隙間からほのかに甘い匂いがする。もしかしてメンバーか運営からのお菓子のプレゼントか何かか?
 僕は夢中になって段ボールを開けた。
 それは思った通りお菓子で、しかもキャンディチョコレートスナックのメンバー数人からのメッセージカード入りだった。
みなさんに自由に会えなくなってあっという間に1年が過ぎてしまいました。それでもいつもオンラインイベントやコメントでたくさんの応援をいただいて、愛していただけてるんだなと感じることができます。本当にありがとう。私たちのささやかな感謝の気持ち受け取ってください♡
 うおおおおお!いえあ!と思わず声が出た。14年間ファンをやってこんなサプライズは初めてだった。がさがさと箱の中からお菓子を掻きだすようにして取り出し、全て開けていく。
 ドロップ、真由ちゃんだ。ミンツ、麻奈美ちゃんだ。キャラメル、優子ちゃんだ。チョコレート、まりあちゃん。ウエハース、玲奈ちゃん。ワッフル、茉莉ちゃん。スポンジケーキ、ありさちゃん。ドーナツ、美優だ。そのほか色々、出てくる出てくる。
 食べても食べても飽きない。この一口一口がメンバーから僕への愛だと思うと、一箱ぺろりと食べてしまった。美優のドーナツがシンプルな味で、地道に努力している姿と重なってその素朴さに涙さえ出た。

1 2 3 4