小説

『Kids Are Alright』室市雅則(『花咲かじいさん』)

 半分に割れたラッキーが不器用にくっ付いていて、ラッキーも可哀想だ。これなら一思いにと僕はそれを破いて散り散りにした。
「せっかく直したのに」
 山崎を無視して、僕はそれをゴミ箱に投げるように捨てた。
 紙のかけらの何枚かゴミ箱に入らず、床に落下した。
 ごめん。ラッキー。僕の勘違いだったんだ。むしろ君はアンラッキーだったんだ。

 給食が終わり、今日の最終授業が始まった。今日の献立は僕の苦手なキャロットポタージュだったし、やっぱりアンラッキーだったのかもしれないなと窓の外を眺めた。
 雨が止んだグラウンドには誰もいない。
 何かが現れて、立ち止まった。
 犬。
 しかも茶色のラブラドール。
 さらによく見ると眉毛がある。
 僕が描いたラッキーにそっくりだってかラッキーだ。
 誰も気がついていない。
 めっちゃ尻尾を振り出したと思ったら用務員のおじさんが飛び出して来た。
 どうやら遊んで貰えると思ったらしく、ラッキーははしゃぎながら逃げて行った。
「何か面白いことでも起きているのか?」
 先生が僕の隣に来ていた。
 みんなが僕を見ていた。
「用務員さんが面白いのか?」
 みんなが笑った。
 もう慣れっこだ。

 学校が終わって、再び吉田くんは間抜け犬の会を始めた。僕はそれを無視して、家に帰ることにした。意地でももらうもんか。
 帰り際、最近、仲良くなりかけている根本くんが「良いことあるよ」と慰めてくれた。彼とはもう少し仲良くなれたら良いな。
 団地の敷地に入った時、背後に気配を感じた。
 振り返るとグラウンドに現れたラッキーが僕の後ろを付いて来ていた。
 ダメだよと向こう向こうとやっても尻尾を振るだけで、ずっと付いて来る。
 とうとう僕の家の玄関の前までやって来た。ドアを開けたらお邪魔しますも言わずに入って来そうな感じ。
 僕はサッとドアを開けて家の中に入ってお母さんを呼んだ。
「お帰り。どうしたの?」
 手短に説明をするとお母さんがドアスコープから外を覗いた。
「見えないよ。本当にいたの?」
 そう言ってお母さんはドアを開けた。
 ラッキーが飛び込んで来て、お母さんは悲鳴を上げた。

 結果、ラッキーはお父さんが仕事から帰って来てもいた。
 出ていく気配もないし、眉毛のせいか憎めない具合だから追っ払えずにいた。
「お父さんは飼っても良いと思うけどな。なあお母さん」
 え、本当? 僕はお母さんの顔を見た。

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