小説

『Kids Are Alright』室市雅則(『花咲かじいさん』)

「そうね。なんだか可愛い犬だし。一応、迷い犬かもしれないから、しばらくおばあちゃんの家で預かってもらって、飼い主さんが現れなかったらうちで飼おうか」
「うちで飼えるの?」
 僕は尋ねた。
「内緒にしていたけど、引っ越すの。家を買ったの」
 えーっ。いえー。もう一つの心配が浮かんだ。
「学校変わるの?」
「同じ学区だから大丈夫」
 良かった。根本くんとはこれからだし、山崎はちょっとだけ可愛い。
 お婆ちゃんにラッキーを預けて帰って来るとお母さんの携帯電話が鳴った。
「吉田くんだって」
 お母さんが僕に告げ、電話を受け取って「もしもし」と口にした。
「今日はごめんね」
 吉田くんの一言目だった。
 謝るなら最初からやるなよなんては思わない。先に謝れるなんて大人だなと思う。
 僕だって悪かったし。
「こっちこそ、ごめんね」
「また明日ね」
「うん」
 それでお母さんに携帯電話を返して、お風呂に入った。
 お湯の中で目を開けた。
 もやもやして何も見えないし、痛い。
 お風呂から上がって鏡を見ると目が赤くなっていた。

 次の日、吉田くんと顔を合わせると、ぎこちなくも互いにごめんと言い合った。
 吉田くんが例の間抜けな犬の画を渡してきた。どうやらお詫びのつもりらしい。
 いらないとは言えないから、ありがとうと言って受け取った。
 吉田くんの間抜け犬はやっぱり間抜けで笑ってしまった。
 僕はそこに僕のラッキーを描き加えて折り畳んで筆箱にしまった。
 間抜けとラッキー。
 悪くはなさそうだ。
 始まりのチャイムが鳴って、一日が始まる。
 多分、大丈夫。

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