小説

『Kids Are Alright』室市雅則(『花咲かじいさん』)

 僕は水着を脱ぎ、パンツなしの素肌にジャージを履いた。
 未知の感覚が僕の下半身を包む。悪いことをしているわけではないのに、そんな気分。
 僕、パンツ、履いてないんだぜ。
 そう思いながら、バスに乗り込んで、おにぎりを食べようとカバンからタッパーを取り出した。
 半透明のフタで閉じられたタッパーを開ける。
 空っぽ。
 おにぎりが入っていない。
 お母さんがこんなイタズラはしない。となると答えは一つ、誰かに食べられたのだ。そういえば、僕よりも後にロッカーからプールに出てきた年上っぽい人が口を動かしていた。
 パンツもおにぎりもないなんて散々だ。
 吉田くんの犬を持っていれば、こんなことは起きなくて、それどころか思わぬお小遣いを手に入れられたはずなのに。

 帰宅し、お風呂に入って、新しいパンツを履いて、ご飯を食べて、僕は勉強をするふりをして自分の部屋で机に向かった。一人っ子のおかげで団地ながらも部屋が与えられているのだ。
 色鉛筆を取り出し、ノートを一枚切って、それを前に腕を組んで、何を描くかを考える。あのラッキーアイテムを自作するのだ。
 運を自分で手繰り寄せるしかない。
テーマが浮かばないので、吉田くんが描いた間抜けな犬を思い出す。
 間抜けな犬って基本的に笑えるはずなのに、あの犬はどうも笑えなかった。犬種も分からないし、愛嬌の問題なのだろうか。しかし、あえてそのような方が、運気的にはプラスということもあるような気がする。天は二物を与えない的な。
 犬か。
 やはり。
 そうだろう。
 吉田くんの二番煎じ感が否めないが、これを持ち歩いた結果、幸運が訪れたとしても僕はクラスで発表をする気はないから、誰も僕が真似をしたとは知りようがない。
 犬と決めて、ノートの切れ端に色鉛筆を走らせた。
 明らかに吉田くんの犬より育ちも性格も茶色の毛並みも良さそうなラブラドールが描かれた。僕はこの犬種が好きだ。体が大きいから、心も大きそうに見える。いつか飼えることがあったら嬉しい。お父さん頑張って。
 この犬を眺めていると、どうも真面目過ぎる気がしたので額に黒い眉毛を加えた。
 ぶぶぶ。
 これはイケる気がする。
 犬の下に『ラッキー』と書き加えた。
 ぶぶぶ。

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