小説

『夏鶯』草間小鳥子(『見るなのざしき(新潟県長岡市)』)

 ユイは目を細め、決まってるじゃん、と歌うように言った。
「ハルくんに開けさせたかったからでしょ」
「なんだよそれ」
 苦笑いしてハンドルを切ると、開いた窓からふわりと花の香りが立つ。
「なぁ、ユイの部屋にも、『開かずの間』あったよな」
 それとなく尋ねると、間髪入れずにぴしゃりとユイが言った。
「絶対開けないで」
「なるほど、わかった」
「やめてよ。だめだからね?」
「わかった」
「最悪」
 夕凪に撫でられ、僕はぼんやりとした幸福を噛みしめた。

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