ユイは目を細め、決まってるじゃん、と歌うように言った。 「ハルくんに開けさせたかったからでしょ」 「なんだよそれ」 苦笑いしてハンドルを切ると、開いた窓からふわりと花の香りが立つ。 「なぁ、ユイの部屋にも、『開かずの間』あったよな」 それとなく尋ねると、間髪入れずにぴしゃりとユイが言った。 「絶対開けないで」 「なるほど、わかった」 「やめてよ。だめだからね?」 「わかった」 「最悪」 夕凪に撫でられ、僕はぼんやりとした幸福を噛みしめた。 5/5 前のページ 8月期優秀作品一覧 HOME 1 2 3 4 5