バリアフリーのバスが難なく私達を伊勢神宮へと運ぶ。平日でありながらも往来する車はどれも県外ナンバーばかりで、こうしていくつもの時代を超えて、日本人の心のふるさととしてあり続ける伊勢神宮の偉大さを感じるのだった。
「お腹空いたから、着いたら伊勢うどん食べやん?」
「さすが佳子ね。そうしよう!」
私達、数十年振りに再会したのに、どうしてこうも息が合うのだろうか。
おかげ横丁の定食屋にて、五十鈴川のせせらぎを眺めながら伊勢うどんを食す。それは、なんとも形容し難い贅沢な時間だった。みんな口数少なく味と景色を堪能した。
腹ごしらえを終えると、あちらこちらと目移りしながら定まらぬ歩みの私達に疲労の色は一切無い。ただ、通路の狭い店内に車いすが入れないことがあり、早苗は罪悪感を抱いていたようだった。きっと、これまでにもトイレの介助や電車やバスの乗降に手を煩わせたという気持ちがあったに違いない。
「私、足手まといでごめんな」
「何を言っとるんさ。それなら、せめて、おおきんな! やろ?」
「うわぁ、懐かしい言葉! 東京じゃ全く聞くことなかった!」
「裕美子も早く三重の言葉に戻しなさいな」
「はいはい、かしこまりました」
車いすを押す私にその顔は見えなかったが、私達のやりとりに早苗はきっと笑顔を浮かべていただろう。
おかげ横丁を抜けると大鳥居が視界に飛び込んだ。ついに伊勢神宮へやって来たという大きな達成感が込み上げる。
私達は宇治橋の正面から大鳥居を眺めた。鳥のさえずりが耳に優しい。
「数十年の願いが叶ったね」
鳥居を見上げて私が言うと「そやね」と裕美子が返した。
笑顔を取り戻したはずの早苗は……なぜか俯いてその肩を震わせている。
「どしたんさ」
私は早苗の前に回り込むと、顔を覗き込んだ。流れる涙が見えた。
「実は、一年前に娘が癌で死んじゃってさ。一緒に伊勢神宮へ来たのを思い出したら……つい……」
初めて知ったその事実に、私達はすぐに言葉をかけることができなかった。賑やかな周囲の雰囲気に、ぽつりと私達三人だけが取り残されたようだった。
「これからやよ、私達。私も老人ホームに入るなんて、この先の人生お先真っ暗やと思ったけど、あなた達に会えて今は幸せやもん」
「私もよ。ずっと一人やった人生の最後に、まさかこんな素晴らしい仲間と再会できるなんて思ってもみなかったんだから。ほんと、おおきんな」
「……へたくそ」と、早苗が笑う。
「お姉さん達、良かったら写真撮りましょうか!」
「お姉さん」の響きに私達のことだとは思わなかったが、声の主である男性は明らかにこちらに向けて声をかけている。
「いや、決して怪しい者ではございません。私はこうやって観光客の方々に喜んでもらおうと老後の趣味でやっとるだけですから」
「お姉さんって言われたら、お願いしようかな」