「もうすぐ着くよ」と少女と同じ顔をした村松さんに言われると、今も夢の延長のような気分だった。
それから次の停留所を知って思わず隣を見る。表示されていた所が再会の場所にふさわしくなかったのだ。それでも彼女の振る舞いは変わらず明るかったから、到着するまで確信が持てなかった。
バスを降りると彼女は僕をせかして目的の場所へ急ぐ。そして、それが見えると目を細めて手を振った。
「ゆきちゃん、会いに来たよ」
彼女が笑いかけた先には誰もいない。ただ、お墓がぽつりとあるだけだった。
施設から借りた掃除用具でお墓の手入れをした。彼女は慣れた様子で僕にも遠慮なく指示を出す。最後に水をかけると、売店で買ってきたお花と線香をあげた。
村松さんが手を合わせたまま目を閉じるのでそれにならう。視界が暗くなると風の音や虫の音がよく響いた。
「私、おばあちゃんっ子だったの」と彼女が呟いた。ゆきちゃんは、村松さんの祖母の名前だった。
「ママはシングルで手一杯だったから、ゆきちゃんが面倒を見てくれてた。嫌なことがあった日は私の好きなものを作って『涼ちゃん、おいしいものを食べたら嫌なことを忘れるよ』って言うの。私が健康に生きているのはゆきちゃんのおかげだと思ってる」
そこまで言ってから、初対面の人に話すことじゃないよねと謝った。
「数年前にゆきちゃんが体調を崩して、東京の叔母さんの家に行ってしまったの。私、忙しさを言い訳に会いに行かなかった。いつか行こうって思っている内に知らせが来て結局間に合わなかったの。だから今さらだけど、会いたい時は飛び出しちゃうんだよね。今日もそう。でも寂しいから会いに行くのに、訪れてもっと寂しくなるの、おかしいよね」
予想していた再会シーンはあっけないものだった。そもそも、僕は彼女に何を期待していたというのか。心は軽くなるどころか重く締め付けられ、いろいろな感情がぐちゃぐちゃに混ざった。
「僕にも会いたい人がいるんです」
村松さんに話しながら頭の中が整理されていく。発端は先週かかってきた母からの電話だった。
『ねぇ、さやかちゃんって覚えてる? 茜が小学校の時散々お世話になったさやかちゃん。私も知らなかったんだけどね……一昨年、事故に巻き込まれて亡くなったみたいなの』
最初そう聞いた時、非情にも心が動かなかった。涙するにも、さや姉の存在は過去に埋もれていてピンとこなかったのだ。
『聞いてる? お母さんも今日お線香を上げてきたの。さやかちゃんママ、茜のことを覚えてて写真を見せたらびっくりしてた。大きくなったね、さやかにも見せてあげたいって。茜もどこかでお線香を上げに行きなさいね』
小学生の時に家が近所だったさや姉は、母の言う通り面倒見の良い少女だった。両親共働きだった僕が家の鍵を忘れて途方に暮れていると、心配して自分の家まで連れて行ってくれた。優しくて大好きで学校内で出くわせば「さや姉だよ」と友達に自慢してまわった。低学年の頃の話だ。