小説

『テクテクと歩く』真銅ひろし(『三年寝太郎』)

 飼い主らしき人が来ないか周りを確認して、ゆっくりと犬の頭を撫でる。
 サワサワした感触が手に伝わる。犬もされるがままでハァハァ言っている。
「可愛いなぁ、お前。」
 今度は顎の舌をサワサワする。犬は目をつむったようになり少し上を向く。気持ちが良さそうだ。
「いいなぁ・・・。」
 犬の生活が羨ましいのか、可愛いからいいのか、何がいいのか自分でもよく分からなかったがつい言葉がこぼれる。
「・・・。」
 横に気配があるのを感じ、見ると高齢の男性が買い物袋を持って立っている。
「あ、すみません。」
 咄嗟に飼い主だと分かり、犬から離れる。
「いいえ。」
 飼い主はニコッと微笑み、電柱から紐を外す。
「よし、ヒデヨシ行くよ。」
 そう言って犬の頭を撫でてその男性は去っていった。
 ヒデヨシ・・・なかなかのネーミングに少し苦笑してしまった。

 また、テクテクと歩く。
 電話しながら颯爽と歩くサラリーマンだったり、井戸端会議して盛り上がってそうな主婦だったり、健康のために歩ってそうなおじいちゃんおばあちゃんだったり、学校はどうした?と聞きたくなるような不良っぽい高校生だったりと、街にはいろんな人がいる。
「・・・。」
 逆にこの人たちからは自分はどんな風に見えているんだろうか?やっぱり冴えない太った無職の男に見えるんだろうか?
「いやいや、言わなきゃわかんないって。」
 一人で突っ込む。
 けれどやっぱり自分に引け目を感じているからこんな卑屈な事を思ってしまうんじゃないか、と落ち込む。
「・・・はぁ。」
 ため息がこぼれる。
「よし。」
 しかし下を向いてばかりはいてはダメなので、試しに上を向いてみる。
 そこには澄み渡った青空が広がっている。
「ああああああああ。」
 何となく言葉を空に向かって発する。
 自分のこれからを想像する。
 再び部屋に籠り、親のすねをかじり、常に自己嫌悪に陥り、そのまま・・・。
「暗いなぁ。」
 どうしたって明るい未来が想像できない。
「よし・・・。」
 ではここで思いっきり頭を切り替えて、無理やり明るい未来を想像してみる。
 一流企業にたまたま送った履歴書が採用されて、めでたく就職。そこから素晴らしい業績を上げて、みるみる昇進、社内の憧れの的になり、社内一の美人と交際し見事結婚、そして出産。親は泣いて喜び、もっと喜ばせようと家を改築し、年を取った親にも住みやすくする。そして自分は会社で重役になり、妻と子供と幸せな人生を送った。
「・・・。」
 途中で自分が情けなくなってしまった。
「むぅ。」
 もっと現実的な所を責めないとダメだろう。想像を膨らませれば膨らませるほど情けなさが倍増していく。
と、こんな事を思いながらテクテクと歩く。

 近所の多摩川に来た。ちょっと疲れたので適当な所を見つけて座る。

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