小説

『終わる時、新しい時』いいじま修次(『姥捨て山』)

 夜が白く明け始めた頃、大型タンカーは配分領土までの距離を空け、前進を止めた。

 銃を所持した監視達の目が光る中、基準老齢者達は甲板から降ろされた階段を使い、肩まで浸かるほどの海水の中へ入り、砂浜まで進む事を余儀なくされた。
 体温と体力を消耗し、濡れた体に砂をまとわせながら砂浜に身を横たえていく数百名の老齢者達。
 彼女は最後まで甲板に残り、全員が砂浜へ辿り着く事を見届けたかったが、監視の一人に追いやられて階段を下り、海水に身を浸けながら老齢者達の動きを目で追った。

 砂浜のすぐ奥に見える巨大な火葬炉の建物から、灯りが漏れ、煙突から煙が上がり始めた。
 彼女はそれに目を止めると、
「そんな……着いてすぐに……」と呟き、全力で海の中を進み始めた。

 砂浜へ上がり、横たわる老齢者達の間を縫い、火葬炉へ駆け寄ると、順番を待つ長い列が作られていた。
 彼女は火葬炉入口のドアの前に立ち、出せる限りの声を上げた。
「待って下さい! 皆さんどうか待って下さい!」
 そう言って建物の中へ入った彼女は、内鍵の付いていないドアに眉をひそめ、すぐに視線を八つの小部屋に向け、その鉄製の扉を開ける為に動き出した。
 火葬炉の造りは承知している。炎が噴射されるまでは扉の自動ロックは作動せず、睡眠ガスの段階で扉を開け放てば動きは解除される。
 開ける事の出来た扉は四つ――その内二つの小部屋は熱気に包まれているだけで老齢者の姿は無かった。
 彼女は残り二つの小部屋から、意識を失っている二名を引きずり出し、無事を確かめた。

 注意はしていたつもりだが、睡眠ガスを吸ってしまった彼女は意識が遠くなり始め、外にいる老齢者達が建物に入るのを何とか防ごうとしたが、ドアの前で倒れてしまった。

 ドアは開かれ、列を作っていた老齢者達は、涙を流して倒れている彼女を避け、小部屋の中へ入り始めた。

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