小説

『終わる時、新しい時』いいじま修次(『姥捨て山』)

「姥捨て山や、島流し! 世間を騒がすこのような心無い表現の報道に、私は誠に遺憾であります! この政策は国民の為、そして我が国を思えばこその決断なのであります!」

 十年前――当時の首相は、テレビ、インターネット等の中継を通じて国民にある政策を発表し、実行へ移した。
 それは超高齢化社会に対応すべく、基準老齢を迎えた者は、海を挟んで拡がっている配分領土内で余生を過ごすという政策である。

 配分領土とは、戦争で生存者がいなくなり、消失したある国の領土を連合各国で配分した土地であり、特殊兵器により汚染されたその場所に人の姿は無く、各国は廃棄物置き場として使用していた。
 除染作業により、数年で汚染は解消されたが、それでも移住等を考える国は無く、時折各国の大型運搬飛行機が上空に現れては廃棄物を自国の配分領土へ落下させていた。

 基準老齢を迎えても、金銭支援、介護必要の無い者は免除されるが、親族の希望があれば本人の意思は重視せず、配分領土へ送られる事となり、服役中の囚人であれば、基準老齢に達した時点で絞首刑となる。

 国に向けての暴動等を起こさないよう、監視飛行機による目はあったが、領土内で起こる事件や事故、病気等には一切関知していない。

 簡易的な住居と食料は支給されるが、大半の基準老齢者達はすぐに生きるのをやめ、自ら命を絶っていた。
 政策が実行された当初は、基準老齢者達による国に向けての抗議運動や自給自足の動き等も見られたが、十年という年月の経過で、それらの生きる力は感じられなくなった。

「人間は、基準老齢を迎えた所が寿命。それ以上生きる事は、次の世代への迷惑でしかない」という考えが、国内、配分領土の人間共に、常識として根付きつつあったからである。

 海岸近くには巨大な火葬炉が建てられており、中へ入ると通路を間に左右四つずつの小部屋がある。その金属で覆われた小部屋に入りスイッチを押すと、睡眠ガスで眠りに就いた後、炎に包まれ、骨も残らず灰となる。
 苦しみを味わう事無く、命を消す事の出来る火葬炉の存在が生きる力を奪った一つの理由であり、その存在は既に、国が与えてくれた有難い施設とまで捉えられていた。

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