小説

『ゼペット爺さん殺人事件』五条紀夫(『ピノッキオの冒険』)

「あの、ノキオ君、ちょっと向こうの景色を見ながら話をしないか?」
「お断りします」
「そんなこと言わずにさ、ほら、見つめられていると恥ずかしいから」
「話をする時は相手を見ないと失礼ですよ」
「そ、そうか、そうだね、うん、良いことを言うね」
 強情。意地でもロックオン状態を維持するつもりのようだ。ならば他の回避方法を考えなくてはならない。
 しばし腕を組んで思い耽る。そして、閃いた。この方法ならば万事解決するだろう。名付けて、嘘つきのパラドックス作戦。これは彼の嘘つき体質を利用するものだ。まず、君の鼻は伸びている?と尋ねる。それに対しノキオが、伸びている、と嘘をつくと、鼻が伸びる。ところが鼻が伸びると嘘は成立しなくなり、鼻は伸びない。すると嘘が成立して再び鼻が伸びる。以下、繰り返し。
 所詮は人の手で作られた人形、いわば機械だ。伸びる伸びないという処理がループ状態に陥れば、機能が停止するかもしれない。いや、停止するだろう。
「刑事さん、もう取り調べは終わりですか?」
 そう問われ、ケイジは組んだ腕を解いた。さっそく作戦実行だ。
「いや、取り調べの本番はここからだ。良いかい。ノキオ君に大切な質問だ。すぐに答えてくれ。君の鼻は伸びているかい!」
 誇らしげに、勢いよくノキオを指差す。
 それに対して、ノキオは至って冷静に応じた。
「伸びていないです」
 指を差した姿勢のまま更に述べる。
「正解!」
 ノキオは首を傾げた。もちろんその鼻に変化は生じていない。
「え? いまの質問はなんだったんですか?」
「聞かないでくれよ。恥ずかしいから」
 作戦は大失敗だ。ケイジは両手で顔を覆ってうつむいた。
 すると、ノキオが一つ手を叩き、大きな声を発した。
「そういえば、キツネも恥ずかしそうに両手で顔を覆っていました」
 意味が分からず、手を下ろしてノキオの顔を見つめる。
「なに言ってんの?」
「その時は寝惚けていたので記憶が曖昧でしたが、いま、はっきりと思い出しました。昨夜の出来事を」
「つまり、お爺さんを殺した犯人は誰なのか教えてくれるんだね?」
 ノキオは力強く頷いた。
 自供する気になったのか、とケイジは身構えた。
「昨夜、大ボリュームの音楽で目が覚めました。テンポの良い派手な曲です。どこから聞こえてくるんだろうと思って辺りを見回したら、部屋中の照明が七色に輝き、天井からミラーボールとゴンドラが降りてきたんです……」
「いやいやいや、そんなわけないだろ」
 これは自供なんかではない。これはおそらく、大袈裟な嘘だ。
「そのゴンドラの上にはジャグリングをするキツネが乗っていました……」
「ちょ、ちょっと待って。そんな嘘をつかないでくれよ」

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