小説

『ゼペット爺さん殺人事件』五条紀夫(『ピノッキオの冒険』)

 ケイジは立ち上がり、ノキオの視界から逃れようと室内を走り出した。しかしノキオの首が回転して視線が追いかけてくる。
 このままでは、彼の話が終わった瞬間に強力な一撃を放たれる。
「キツネは、何本ものナイフをお手玉のように投げ回していたんです……」
「た、助けてくれ。ストップ。ストップ!」
 懸命に頼み込んでも聞き入れて貰えず、ノキオが話を続ける。
「上手にジャグリングをするキツネでしたが、途中で失敗してしまいました。一本のナイフを落としてしまったんです。落ちたナイフは、横になるお爺さんの胸に突き刺さりました……」
「分かった。分かんないけど分かったから明後日のほうでも向いてくれ!」
 走り回ってクルクル。ノキオの首もクルクル。それでも話は続く。
「七色の照明の中、キツネは、恥ずかしそうに両手で顔を覆いました……ぼくの思い出した話は以上です」
 話が終わった。ところが、ノキオの鼻は伸びなかった。
 その様子を認めたケイジは足を止め、叫ぶように述べた。
「それが真相かよ!」
 後日、キツネが有害鳥獣として捕獲されたのだった。

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