「あなた、本当に大丈夫?」
妻の心配そうな目。なぜ、そこまで心配するのか。もちろん、俺も全く不安がないと言えば嘘になる。だが、出来ないことはないはずだ。俺にだってプライドはある。
「大丈夫だよ。問題ないさ」
俺は妻の方に視線を向ける。妻の後ろ姿。鏡に向かって身支度を整えていた。
俺はその背中に向かって「2時間くらいだろ?」と再確認する。
「そうね。多分、それくらいには戻ってこられると思うわ。まあ、出来るだけ早く……」
「大丈夫。熟睡しているし」
赤ちゃん用のベッドに、1歳に満たない娘が寝息を立てている。
「そう。じゃあ、任せたわね」
妻はそのまま玄関の方に向かい、靴を履き振り返る。
「行ってくるわね」
「いってらっしゃい」
俺は軽く手を挙げた。
なんてことはない。妻は買い物に出かけただけである。
子供が生まれてから、ゆっくり買い物に行ける機会は少ない。だが、娘も1歳が近くなりしっかりしてきた。かといって、幼い子供を連れていくには、まだまだ不安がある年頃ではある。無理に連れだす必要はない。
郊外のショッピングモールに買い物が行きたいと常々言っていたのが始まり。
妻から言わせれば、普段から遅くまで仕事をしている俺は、妻に比べると極端に子供に接する時間が短い。
おむつを替えたり、ミルクを飲ませたり、基本的な世話は出来る。休みの日は、お風呂をいれることだってある。だいたいのことは出来るつもりではあるが、その接する時間の短さが、妻にとっては不安材料らしい。
妻が出て、家の雰囲気が静かになった気がした。
娘は寝息を立てていた。熟睡状態である。
妻が帰ってくるまでの2時間。映画でも見たいところではあるが、娘の睡眠の障害になることは避けたい。アクション映画の爆破シーンなんてもってのほかである。そんなリスクは絶対に避けるべきである。
それに、娘から目をはなすのも危険である。寝返りをうったり、掛布団を動かしたりもするのだ。口がふさがり、息が出来ないなんて最悪な状況にならないよう気にかける必要もある。
わかっている。俺がこの2時間でやるべきことはわかっているのだ。
電気ポットのお湯の温度を上げて、コーヒーを淹れる。そのコーヒーと一緒に、別の部屋から漫画5冊取り出し、積み上げて横になった。