小説

『三人の今にも吹き飛ばされてしまいそうな家』社川荘太郎(『三匹のこぶた』)

「期待して待っててよ。もうそろそろ結果が届くはずだけど」
 三郎が郵便受けを覗きに行くと、試験を受けていた町役場から封筒が届いていた。
 封を破り、三郎は愕然とした。
『慎重に選考を重ねました結果、誠に残念ながら貴意に添えない結果となりましたことをご通知申し上げます。末筆でございますが、今後のご活躍をお祈り申し上げます』
 確かにこれまで落選をくり返してきた。それでも、勉強だけは真剣にしてきたつもりだった。
 来年こそは必ず――三郎はそう考えて再び愕然とした。来年は対象年齢を超すので受験資格がなくなってしまうのだった。
 小学校の頃は将来東大に行ってゆくゆくは官僚になって国を動かすだろうと近所のおばさんたちに言われていた。それがなんだ、この体たらくは。こんなはずじゃなかった。一体どこで間違えたのだろうか。
 もはや自分を認めてくれる人は誰もいなかった。突風に吹かれたように、三郎のプライドは吹き飛ばされ丸裸になってしまった。

 三郎は母に何と言って伝えようか迷っていた。
 これまでさんざん迷惑をかけてきた。女手一つで大飯食らいの兄弟たちを育ててもらった。
 母は泣くだろうか。それとも「そんなこともあるよ」と励ましてくれるだろうか。その両方かもしれない。
 三郎は母が待つ居間の前で立ち止まり、部屋に入ることができなかった。
 そのとき、三郎のポケットの中でスマートフォンが振動した。
「……はい」
 電話は三郎が試験を受けた町役場の人事課の女性からだった。
「実は手違いがありまして――」
 女性が言うには、三郎は最終試験に補欠合格していたが、担当者が誤って不合格の通知を出してしまったということだった。
「それで、先ほど合格者一名から辞退の申し出がありまして、繰り上げで合格になりましたことを報告させていただきたく」
「ということは、僕は公務員?」
「はい、役場に入ればそのようになります」
 やったー! 二郎は叫びながら居間に飛び込んだ。
「どうしたどうした」と一郎二郎も様子を見にやってくる。
 三郎は三十も半ばを過ぎた二人の兄に抱きついた。
「兄さんたち、僕、試験に受かったんだ。春からは公務員になるんだよ!」
 一郎と二郎は顔を見合わせた。
「ほんとか三郎!」
 一郎と二郎は歓喜した。
「やったじゃないか、三郎」「お前はやると信じてたぞ」とそれぞれが泣きながら三郎の背中を叩いた。
「夢に向かって頑張ってる兄さんたちを見ていたら、僕も頑張らなきゃって思ったんだ」
 急に一郎と二郎の表情が曇った。

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