アカネちゃんと顔を見合わせた。
「でもね……」
ヤッちゃんが少し困っているという感じの顔をした。
「どうしたの?」
「ヤッちゃんのアパートでは、犬と猫を飼ってはいけないんだ」
「えっ、じゃあ、ニャン太はどうなるの?」
「うん、どうしたら良いかな……」
ヤッちゃんが空を見上げた。
「ニャン太を捨てたりしないよね」
アカネちゃんが僕も訊きたいことを訊いた。ヤッちゃんに限ってそんなことはしないって分かっているけど、訊かずにはいられない。
ハハッ、と笑うと、「子猫を拾うことはあるけど、捨てることはないよ」と、ヤッちゃんは優しく微笑んだ。
翌日、僕らを迎えに来たヤッちゃんが、マンションのある場所に連れて行ってくれた。敷地と歩道を分ける生垣の前に、銀色の物置が置いてある。
「防災倉庫だよ」と、ヤッちゃんが教えてくれた。地震とかがあった時に必要なものが置いてあるらしい。
ヤッちゃんが防災倉庫の後ろの生垣に向かい、僕とアカネちゃんに、おいでと手招きした。
防災倉庫と生垣の間の隙間に毛布が敷いてあって、そこでニャン太が寛いでいた。ニャン太が何処かに行かないように柵も立ててある。
「ニャン太!」
アカネちゃんと、ほとんど同時に声を上げた。拾った時よりも毛並みがフサフサで、元気な目をしていた。
ヤッちゃんがニャン太を抱き上げ、僕たちに抱っこさせてくれた。ニャン太はとっても暖かくて、お母さんが首元に巻いてくれるマフラーのように気持ちよかった。
「ここで、コッソリ飼おう。そうすれば、2人も毎日会えるしね」
ヤッちゃんの提案に、うん、と2人で大きく頷いた。
「ここなら雨も凌げるし、マンションの外れだから、誰にも見つからない」
「ヤッちゃん、さすが!」
僕はヤッちゃんに抱きついた。
しばらくは楽しい日々が続いたけど、長くは続かなかった。
いつものように、防災倉庫に行こうとした時、ヤッちゃんが言った。
「ニャン太はもういないよ」
アカネちゃんと2人で、えっ? と目を丸くする。
「実は見つかっちゃって、マンションの人に怒られちゃったんだ」
ヤッちゃんは寂しそうに目を伏せた。
「でも、ニャン太は元気だよ。ひとまず、ヤッちゃんのアパートにいるから」
ちょっとホッとしたけど、なんでこんなことになっちゃうのか、僕は胸のあたりがこんがらがった気持ちになった。
その日の夜、頭を拭きながらパンツ一丁で、お風呂から上がってきた僕に、お母さんが言った。
「さっきヤッちゃんから電話があって、ヤッちゃん、マンションの清掃員を辞めるんだって。でも、学童保育のお迎えはやってくれるって。有難いね。でも、どうして辞めちゃうんだろう」
ピンと来た。間違いない。