小説

『ヤッちゃんのわらしべ』十六夜博士(『わらしべ長者』)

 突然の僕の叫び声に、僕が指差す方向に2人が目を向ける。
「あっ、ほんとだ!」
 迂闊に近づくと逃げてしまうのではと思い、みんな足を止めた。
 グレーの毛並みの子猫も足を止めてこちらを見た。警戒しているというより、助けを求めるような弱々しい眼差しだった。
 ヤッちゃんがスッと子猫に近づいた。
 子猫は逃げることもなく、やすやすとヤッちゃんに抱き抱えられた。
「弱っているね」
 子猫を僕たちに見せながら、ヤッちゃんが言った。
 良く見ると、毛がボサボサで、目がトロンとしている。子猫が弱々しく、ニャーと鳴いたけど、ヤッちゃんに抱かれてホッとしたという感じに聞こえた。
「お母さんとはぐれたか、お母さんが死んじゃたのかな」
 たまにノラ猫が車に轢かれてしまうことを僕らは知っていた。きっとお母さんが車に轢かれて孤児になってしまったんだ……。
「可哀想……」
 アカネちゃんが泣きそうな顔になった。
 僕のお母さんがある日いなくなったら――。
 子猫の境遇を想像してしまった。きっと、僕は悲しくて学校にも学童にも行けない。胸が苦しくなった。
「どうしよう」
 何とかしないといけないと思った。アカネちゃんもそう思ったようで、2人ですがるようにヤッちゃんを見つめた。
 ヤッちゃんは、コクリと頷くと、「ヤッちゃんの家に、ひとまず連れて帰るよ」と言った。ホッとして、アカネちゃんを見ると、アカネちゃんもホッとした顔で僕を見ていた。

 僕らは子猫をニャン太と名付けた。
 縞模様がある毛並みなので、シマちゃんとか、いくつか候補があったけど、(猫はニャン太さ)と、ヤッちゃんが珍しくキッパリ言うので、僕もアカネちゃんもそういうものかという気持ちになって、ニャン太になった。よくよく聞いてみると、ヤッちゃんが子供の頃に飼っていた猫の名前だそうだ。初代ニャン太は捨て猫で、ダンボールの箱の中で凍えていたのをヤッちゃんが拾って育てたそうだ。やっぱり、ヤッちゃんは小さい頃から優しかったんだと、僕はちょっと嬉しかった。
「ニャン太、どうしてる?」
 ニャン太を拾ってからというもの、学童保育からの帰り道は、ニャン太の話題ばかりになった。
「もう元気を完全に取り戻したよ」
「良かった」

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