小説

『モザイクピース』小山ラム子(『青い鳥』)

 今は教室で一人静かに過ごす美知佳だが、クラスメートと一緒にいる時期もあった。それこそ今の野田くんのように。
だけど決めたのだ。いてもいなくても同じような場所なら抜けようと。一人でいようと。でも思ったよりも一人でいるのは平気じゃなかった。
「本当に平気なのは真中くんじゃない?」
「ええ! でもぼくあんな風にはなりたくないよ!」
「なに失礼なこと言ってんの」
 野田くんの身体が一センチほど宙に浮いたように見えた。いつの間にか真中くんが戻っていた。
「はい、これ」
「え?」
 渡されたのはカルピスであった。お礼を言う美知佳に返事をせずに、真中くんはしげしげと美知佳の手元を見ていた。
「もうそんなにできてるの? しかもきれいだし。野田は見習いなよ」
「うるさいなあ。あれ、ぼくにはカルピスないの」
「あるわけないじゃん」
「ええ!」
「いいから手動かして。柳沢見習って」
「え、あ、そうだね!」
 野田くんは美知佳を見てあわてて作業を再開した。憎まれ口を叩きつつも素直である。
 しばらく三人で黙って作業をした。気が付いたら下校時刻である。周りには自分達以外誰もいない。
「あー肩こった」
 野田くんが立ち上がって背伸びをしながら机を見下ろす。
「お、結構進んでるじゃん」
「野田が一番遅いね」
「こういうの苦手なんだよ!」
「それなのによく一人でやろうとしたな」
 言い合う二人を見つつ、迷いながらも美知佳は気になっていたことを口にした。
「明日はどうする?」
 作業中ほとんど会話はなかったが、だけど悪くない時間であった。明日もまた三人でやりたいなと思う程度には。
 野田くんと真中くんが言い争いをやめて美知佳を見る。
「俺はやるよ。案外楽しかったし」
「え、じゃあぼくも」
 思わず笑みがこぼれそうだった。この教室でこんな気持ちになるのなんていつ以来だろう。
「わたしもそうする」
 窓の外はもう夕暮れだ。どんなに多くの色画用紙をつかっても表せないようなグラデーション。それは青空だってそうだろう。青色と水色と白色の色紙。それで表すしかないこのモザイクアートのグラデーション。
片づけをしながら机に広がる一面の青を見る。同じ青でもそれぞれにちがっている。配置もそうだし、それに出来も。
不格好な野田くん。きれいにそろっている真中くん。そしてそんな真中くんよりもきれいにできている自分。
美知佳はどの青色も好きだった。

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