小説

『モザイクピース』小山ラム子(『青い鳥』)

 真中くんがしかめ面をする。野田くんがそれに気が付いてびくりと肩を震わせた。
「さっさと帰る予定だったんだけどさ。どうせこの人押し付けられることになるよなと思って戻ってきた」
「だ、だから一人でやるってば!」
 真中くんが引き返してきたこともそうだが、野田くんが言い返しているのにも美知佳は驚いた。
「そんなの山下の思うつぼでしょ。それは許せない。だったらこれをあいつなしで仕上げている姿を他のクラスメートの目に焼き付けさせる」
「なんでそんなに攻撃的なの⁉」
 野田くんは泣きそうな表情である。真中くんの闘志に巻き込まれたくないのだろう。
「喉かわいたからなんか買ってくる」
 野田くんを完全に無視して真中くんが立ち上がる。そのついでのように美知佳の席をつくり「来てくれてありがとう」と言って教室を出て行った。
「よかったー柳沢さん来てくれて。もう息がつまりそうで」
「そうなの? さっきは言い返せてたじゃん」
 席に座り画用紙を手元に引き寄せながら野田くんに返事をする。これは青空の部分であろうか。つかう色紙はほぼ青系である。
「え? ああ、まあ真中くんあんな感じだし」
「はっきり言うよね」
「言いすぎなんだよ! 別にそれは勝手だけど巻き込まないでほしい」
 美知佳は曖昧に頷きながら野田くんが仕上げた部分に目をやった。あまりきれいとは言えない出来だ。こういう作業は好きじゃないのではないか。だったら彼にとって真中くんが手伝いに来たこと自体は助かるものだろう。
それがこんなに嫌がられてしまっているとは。真中くんは損な人だなあ、なんて彼の仕上げたきれいな部分を見ながら思う。
「あ、そういえばあのポスター描いたの柳沢さんなんだよね。すごい上手だね!」
「え、うん。ありがとう」
 瞳を輝かせる野田くんの無邪気な様子を美知佳は意外な思いで見つめる。クラスの友人らしき人達の中で彼はいつも大人しい。いや、と考え直す。きっとあの中では話せないのだ。
 美知佳の絵の良さについてなおも明るい調子でしゃべる野田くんだったが、段々とその表情は暗くなっていった。
「ぼくも絵とか描ければ一人でも平気になれるかな」
 今までと一転、ぽそっと呟かれたその言葉が一番はっきりと美知佳の耳に届いた。
「別に平気じゃないよ」
 え、と野田くんが顔をあげる。
「だってわたしうれしかったもん。ポスター描いてって頼まれたとき」

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