小説

『枯れ木に花を』ウダ・タマキ(『花咲かじいさん』)

 そこに大判小判は埋まってなかった。しかし、そんなものより、ずっと大切なものがたくさん眠っていた。
「タロ、お前は、ほんま・・・・・・お前はアホな奴や・・・・・・ほんまに、アホやな」
 私はタロを力一杯抱きしめた。タロは私の頬を伝う涙を優しく舐めた。

 それから一ヶ月後、タロは眠るように逝った。隣家から楽しげな声が聞こえる、いつもと何も変わらぬ日曜日の昼下がりだった。

 最近の私は酒を断っている。煙草は・・・・・・少し本数を減らしている。私は一人残されながらも、前を向いて生きる意欲を取り戻そうとしていた。命はいつか尽きる。恵美子ではなく、タロでもなく、私が残されたのは幸いなことだと感じるようになった。大切な家族を残して逝くなど、私にはできないだろうから。
 恵美子が大切にしていた竹製の髪飾り。銀婚式の旅行で買ったキーホルダー。ずっと愛用していたオーデコロンの瓶。チェスターコートのボタン・・・・・・あの日、タロは彼の大切な思い出の欠片を私に譲ってくれた。

「なんか、最近、いろんな物が無くなるんよね」
「おいおい、まさか、認知症ってやつか?」
「何言ってんのよ、失礼ね」

 あの不思議な現象の犯人は、今、恵美子の写真の隣に無邪気な顔をして並んでいる。大好きな人の愛用したものをそっと口に咥え、人知れず掘った地中に隠す姿を思うと愛おしい。きっと、未来の私に贈るプレゼントだったに違いない。私が前を向いて生きるために。
 今、私は庭に数本の桜の苗木を植えようと考えている。今度こそ、来年の春には庭を覆うくらいの花を咲かせるつもりだ。そうすれば、写真の中にいる恵美子の笑顔が、きっと相応しいものとなるだろう。その時を楽しみに、私はこれからの日々を生きる決意をした。

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