小説

『なめるなよ、そこの女』真銅ひろし(『かえるの王さま』)

「うん。ポケットに入れてた。ちょっと気が早かったね。」
「・・・。」
 確かに気が早いとは思ったが、そんな純粋な気持ちを簡単に打ち砕いた妹尾への憎しみが増した。彼氏から言われたって言うのも怪しいが、もしデート出来ないのであれば代わりの事をしてやるのが普通だろう。
 ・・・腐れ女が。何が『姫』だ、ふざけやがって。
 心の中で毒づいた。

 次の日、妹尾が1人の時を狙って廊下に呼び出した。どうしても一男の純粋な気持ちを簡単に壊して欲しくなかった。
「どうしたの、高坂君?」
 ニコッと微笑む。何も悪い事をしていないとでも言うような顔をしている。
「あのさ、前に一男にカギを探して貰ったろ。」
「うん・・・。」
「その時デートの約束したよな。なんでしてあげないんだよ。」
「それは直接本人に言ったけど。」
「聞いたよ。だったら違う事でお礼は返せよ。その時だけ調子の良い事言って、人を良いように使うなよ。」
「良いようになんか使ってないけど。」
 あからさまに嫌そうな顔に変わる。これがこいつの素の顔なのだ。味方じゃない奴には汚い顔を平気で見せる。
「なんで高坂君に言われなきゃいけないの?関係なくない?」
「・・・友達だからだよ。あいつは楽しみにしてたんだぞ。」
「だって彼氏に止められたからしょうがないじゃん。」
「だから違う事でもお礼出来るだろ。」
「いちいちうるさくない?そんなにお礼が欲しいんなら本人に言ってこさせなさいよ。あんたがやってる事は余計なお節介って言うのよ。」
 吐き捨てるように言って教室へと妹尾は戻って行った。
 余計なお節介。
 言われてみればその通りだが、その物の言い方に無性に腹が立った。
「高坂くん・・・。」
 声の方を振り向くとそこに一男が立っていた。

 たまたま廊下で二人が話しているのを見かけてしまい、申し訳ないと思ったが遠くから覗いてしまった、と一男は言った。やはり何を話していたかは聞かれた。誤魔化すのも変なので正直に話した。
「あ・・・そうなんだ。」
「勝手な真似して悪かったな。でもどうしてもムカついちゃってさ。」
「いや、いいよ。ありがとう。」
「・・・やめといた方がいいだろ。」
「・・・。」

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