やめておけ、あいつにお前の良さなんか分かるわけない。
ずっとそう思っていた。
西野一男。この男は一人の女に惚れている。
妹尾優香。あだ名は『姫』。
同じクラスで我が高校ナンバーワンに等しいくらいの美女だ。もちろんクラス内ではお姫様扱い。うっかり忘れ物をしようものなら男子も女子も『私のを使って』と名乗りをあげる。なんでもかんでも彼女にはみんな気を使う。
そんな妹尾に一男は惚れている。相談されたのは一ヶ月ほど前。
「高坂君、僕、妹尾さんが好きなんだ。どうしよう。」
学校の帰り道、もじもじしながら一男は言いだした。
「妹尾って妹尾優香か?」
ほぼそれしか考えられなかったが、そうあって欲しくはないと思い確認した。
「そう・・・。」
「あ・・・そう・・・。」
言葉に詰まる。なんて返していいか分からない。なんでよりによって妹尾優香なのか・・・。
「ダメかな?」
「いや、ダメって言う事はないんだけどさ、何で好きなの?」
「前にさ、あの子がさ、アブ川の橋の上からうっかり家の鍵を落としたらしくてさ、僕が探すのを手伝ったんだ。」
自分たちの高校は通学途中にアブ川と呼ばれる大きな川がある。
「それで?」
「見つけた時にさ、彼女、凄く喜んでくれてさ、なんだかその笑顔を見た時から彼女が気になるようになっちゃたんだよね。」
一男ははにかみ下を向く。
「ちょっと待て。それだけか?」
「いや、それにさ、彼女、今度デートしてくれるって言うんだ。」
「・・・本当か?それ。」
言っちゃ悪いが妹尾優香が一男のような男子とデートするとは思えない。ひときわ目立つ妹尾は学校のイケメンから声を掛けられている。しかも前に見かけた事があるが、駅前で大学生と思われるチャラい男と歩いていた。それに比べると一男は地味だ。何の特徴もない真ん中分けの髪型に、丸顔、メガネをかけて、背も低い、そして本ばかり読んでいて大人しい。どちらかと言えば『ダサい』方の部類だ。