「・・・本当はさ、拾う前に『私に出来る事はなんでもするから』っていてくれたからさ、つい甘えちゃったんだよね。」
「ふ~ん。」
嘘くさいと思ったが言葉を引っ込めた。一男の嬉しそうな顔を崩したくはなかった。
「それでデートはいつ?」
「まだ決まってないんだ。出来そうな時に妹尾さんから声を掛けてくれるって。」
「・・・。」
なんだそれ、と言いそうになったが、やはりこれも引っ込めた。しかし“出来そうになったら”って言うのはどういう事だ。大事なものを探してくれたお礼は最優先だろう。
「デートどこがいいかな、高坂君。」
不安と期待が入り混じった表情を浮かべている。こっちも人に勧められるほど経験豊富ではない。
「映画館とかでいいんじゃないか?それか遊園地。」
「そうだよね、それが無難だよね。妹尾さんどんな映画が好きなんだろう。」
「さぁ、SNSでも見てみたら。なんか趣味とか分かるんじゃない。」
「・・・実はもう見ちゃったんだよね。それでもあんまり分かんなくて。」
早い。かなりの本気度が伺える。
「じゃあ本人に聞くしかないな。」
「え!本人!?」
「同じクラスなんだから聞けるだろ。」
「無理だよ、無理無理。絶対無理。」
一男は真っ赤になりながら首をぶんぶん横に振る。必死に否定する姿が可笑しくて思わず笑ってしまった。
「笑わないでよ・・・。」
「ごめん、ごめん。じゃあ俺も考えておくからさ、妹尾から言われたら教えて。」
「うん。」
一男は嬉しそうな顔で応える。その後も妹尾の話ばかりだったが、別れ際に一男が書いている小説の話にもなった。大きなコンペに応募したそうだ。普段は地味で目立たないが、こいつの書く物語は面白い。この独創性に俺は惹かれている。
と言うのが一ヵ月前の話。
それからどうなったかと言えば、妹尾からデートの話は来ていない。
やっぱりな・・・。
と言うのが正直な感想だ。たぶん妹尾はその場で適当に言ったに違いない。自分では出来そうにない事をやってくれる男子がいれば、平気で嘘をつく女だ。