小説

『主役』古林一気(『白雪姫』)

ところが、白雪含めその取り巻き7人達はなかなかたこ焼きに手をつけない。
すると、取り巻きの一人がこう呟いた。
「買いすぎちゃったなぁ。食べきれないかもね。」
こ、このままだとまずい。とにかく白雪がたこ焼きを食べるよう、他の邪魔な物を処理しなければ。
「わ、私まだ余裕あるからそっちのもらってもいい?」
「おお、妃さん食べるねぇ。いいよいいよ!どんどん食べて!」
そこからはもう必死だった。満腹感を無視して私は鬼神の如く食べ続けた。いつの間にか周りには人が集まり、注目を受けていると気づかないほどに。
そしてようやく残りが私のたこ焼き二つだけとなった。一つはあの下剤入りである。
「ごめんなさい白雪さん、さすがに私もお腹いっぱいだから、一個食べてくれない?」
「うん、一個くらいなら食べれるよ!残すのももったいないしね。」
ようやくこの時が来た、下剤入りのたこ焼きが白雪の口へと運ばれていく様を私は固唾を飲んで見守っていた。
「あっ!」
急に美波が大きな声をあげた。
「えっ、何!?あっ!」
驚いて身体をビクッとさせた白雪の手から、たこ焼きがこぼれ落ちていった。たこ焼きは重力に従い、地面にグチャッと音を立てて落ちた。私にはたこ焼きが落ちていくのを見ていることしか出来なかった。
「あ、ごめんなさい妃さん。落としちゃった。美波ちゃんが驚かすからだよ!」
「あー、もう食べれないね。ごめんごめん。でも二人とも、もう1時だよ!準備あるんでしょ?」
「あ!ほんとだ!行こっ!妃さん!」
まばたきも忘れてたこ焼きを呆然と眺め固まっていた私は、白雪に手を引かれて連れていかれるがままだった。
その時、激痛が私のお腹を襲った。う、うそでしょ…。やばいっ。
「ご、ごめんっ、先行ってて!」
そう言い残し私はトイレへと駆け込んでいった。下剤ではない。これは、ただの、食べ過ぎだ…。
なんでこんなことに…便器に腰をかけたまま私は自らの愚かさを呪った。あの時は焦りで冷静さを失っていたが、よくよく考えてみればあんな回りくどいことをせずに、初めから自然に、「白雪さん私のたこ焼きも食べてみて?」と言えばよかったのだ。なんでこんな簡単なことにも気づかなかったのか。
しかし、後悔してもどうにもならない。こうなったら自力で優勝するしかない。この腹痛にも、白雪にも私は負けない。
「まずはここから出さなければ、間違えた。出なければ。」
ひっひっふー、ひっひっふー。私はテレビで見たラマーズ法でなんとか出せるだけのものは出し、ミスコン会場へと向かった。
そこからはもう、それはそれは大変だった。その後も幾度となく腹痛は私を襲ったし、ミスコンの衣装のドレスはそんな私の腹を容赦なく締め付けた。
しかし私はなんとか自慢の笑顔を作りステージに立ち続けた。そしてその結果私は…。

 

「妃さん入りまーす!」

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