小説

『主役』古林一気(『白雪姫』)

私が顔を出すと若いディレクターが声を上げた。すると周囲が「おはようございます!」「よろしくお願いします!」と私に挨拶する。
私も愛想よく、
「よろしくお願いします!」
と返し、指示された立ち位置についた。すると先ほどのディレクターが近づいてきた。
「スタジオからの合図で中継開始するので、少々お待ちください。」
目の前の小さなモニターに映るスタジオを見る。
「それでは次は、妃アナの‘B級グルメ制覇の旅’のコーナーです!妃さーん!」
それを合図に画面に私が映る。
「はーい、白雪さん、おはようございます!今日は日暮里駅に来ています!こちらは地元で密かに人気のたこ焼き屋さんだそうです!それでは早速いただきたいと思います。」
あれから10年後。私は夢を叶え女子アナウンサーとして働いている。思い描いていた形とは違ってしまったが。毎日外に出て、話題の店に行って食レポをするのだ…。なんと、立派な脇役である…。
どうしてこうなったのか、結果から言うと私はミスコンに優勝し、注目を浴びた。しかし、それは優勝したからではなかった。あの時の私の食べっぷりをスマホで撮影していた人がいたらしく、その動画がネットで話題になり、一躍話題の高校生となったのだ。それは大学に行ってからも続き、私は大変苦労した。しかしそれを越えた先で夢が叶うと信じ4年間頑張った私に待っていたのは、少し違うものだった。
女子アナになった私に来る仕事と言えば、食べる仕事ばかりである…。
「ごちそうさまでした!大変美味しかったです。それではスタジオにお返ししまーす!」
一方白雪はといえば、今では好きなアナウンサーランキング1位の大人気アナウンサーだ。私は今でも自分を完璧だと思っているし、まして白雪に劣っているとは微塵も思わない。しかし、どうやら世間はテレビという薄っぺらい四角の中に、完璧というものを望んじゃいないらしい。‘天然’という少し間の抜けた人間の方がよっぽど好まれるのだ。つまり主人公は完璧なよりも、未熟な方がいいのだ。私はあの時の失敗を、未だに後悔している。もし、あの時私がもっと冷静で、白雪にたこ焼きを食べさせる事が出来たら、私はまだ主役側にいたに違いない。
「なんでこんなことに!もう!」
モニターの画面がスタジオに戻る。
「妃さんは本当に美味しそうに食べますね!私、昔からタコ食べれないのに食べたくなっちゃいましたもん!」

1 2 3 4