小説

『こびとからのおくりもの』石咲涼(『こびとのくつや』)

『こびとさんへ こびとさんからもらったくつはいて おさんぽして たのしかったよ。ありがとう。ままとらんちもして かわいいこびとさんもらったの。すずもこびとさんにくつ つくってみたからはいてみて。 すずより』
 そう、今日もらったこびとは着脱できる靴を履いていたのだ。それに興味を持ったのだろう。赤い粘土で作った靴だった。

 それから、珍しく少し早く帰宅したパパに、今日の出来事を一生懸命話した。ママのかわいい靴のこと、お散歩のこと、ランチのこと、蛍のこと。
 けれど、パパは「そうか~よかったね~」と不思議なところはわかっていない様子。疲れすぎて気が付かないようでもあった。
「すず、ほたる見たいの! みんなで行こう!」
「いきたいね。でもパパ忙しくてお休みとれないんだよ」
 残念そうに言った後、死んだように眠る主人を見て気の毒に思った。 

 次の日もこびとは返事をくれていた。
『すずちゃんへ おさんぽたのしかったみたいでうれしいよ。それから、こんどはくつをつくってくれたんだね。ぴったりだったよ ありがとう。 すずちゃん またほしいくつあるかな? こびとより』 
「わーい。すずの靴も喜んでもらえた。うれしいな♪」としばらく家の中をぴょんぴょん飛び跳ねていたが、「そうだ!」とこびとに手紙を書き始めた。
『こびとさんへ はじめてつくったくつ よろこんでもらえてよかった。あのね すず こんどはパパのくつがほしいです。パパとおさんぽしたいから。 すずより』

 次の日、パパに靴が届いていた。革靴でない、のどかな自然の中をずんずん歩けそうなかっこいい靴が。
 その靴を見て主人は目を丸くしたが心が動いたようだった。
「久しぶりに旅に行きたいな。蛍、見せてやりたいな」
 と言って、しばらく考え込んでいた。
「たまには息抜きできたらいいね」
 とだけ、私は言った。

 が、その一か月後の夜。私たち家族は蛍の幻想的な光の中にいた。
 やっぱり、こびとの靴は魔法の靴なのだろうか。
 あれから「旅の計画を立てるだけでも行った気分になって楽しいよね」と主人と色々調べている間に、急に休みがとれたのだ。蛍が見られるのは初夏だったのでちょうどいいタイミングだったし、せっかくだから思いっきり自然を満喫できるのはどこかなと探している時間も楽しかった。

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