小説

『こびとからのおくりもの』石咲涼(『こびとのくつや』)

「こびとさんにお礼のお返事かかなくちゃ」
 娘は大喜びで手紙を書き始めた。
『こびとさんへ すずのほしかったプリンセスのくつ どうもありがとう。すずうれしかったよ。おれいにまた おようふくつくったから きてね。 すずより』
 見ると、いつのまにか工作で使っていた毛糸でスカートのような洋服を作っていた。帽子もセットにして。

 次の日、まさかとは思ったが、洋服はなくなりまたこびとから手紙がきていた。
『すずちゃんへ おてがみありがとう。プリンセスのくつをよろこんでもらえてうれしいです。それからこんどはぼうしもどうもありがとう。すずちゃん、ほかにほしいくつはないですか? こびとより』
 物語では次の日は靴が二足になっている。もしかしてその分だろうかと思っていると、
「わーこびとさん、やさしいね。どうしようかな。プリンセスの靴もらったから、ほかにはそうだなあ。ママ、欲しい靴ある?」娘はふいに私に聞いた。
「え、ママ?」
「うん、だって、ママすぐ足が痛くなるから、かわいくない靴ばっかり履いてるでしょ? たまにはリボンがついたのとかいいんじゃない?」
 そういえば私はすずが生まれてから、抱っこしなくてはいけないし歩きやすいとか危なくないものとかでおしゃれな靴なんて履いていなかった。
「そうね。ありがとう。赤いリボンのついた靴なんてすてきね」
 そんな靴履いていくところがない、と心の中では思ったけれど娘の気持ちを受け取ることにした。
 娘は『ままにかわいいあかいりぼんのついたくつ ください』と書いた。

 次の日、目の覚めるような赤いリボンのついたおしゃれな靴が届いていた。
 衝撃的な色と出来事に私は何か刺激されたのかもしれない。その靴を履いてプリンセスの靴を履いた娘と出かけることにした。いつものどんよりした足元がキラキラして見える。
「どこかいい所へいっちゃおう!」と自然と出てきたのには自分でも驚いた。

 まずは近くの図書館までね、と歩く。大抵新しい靴は最初足が痛いものよ、といつもながら慎重に戻って。
 けれども全然足が痛くないのは魔法の靴だから? これならもっと遠くまで行けるわね。
 二人でスキップしながらの散歩は楽しい。

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