小説

『こびとからのおくりもの』石咲涼(『こびとのくつや』)

「かわいい~♪ こびとさん喜んでるね」
 娘のお気に入りの絵本「こびとのくつや」を読む度に、こびとが洋服をプレゼントされるシーンでとても喜ぶ。しかし「どうしてこびとさんは裸なの?」というお決まりの質問もある。他の絵本に出てくるこびとは洋服を着ているのでなおのこと不思議なようだ。確かに、と私も思う。
「このこびとさんがすんでいるところはみんな洋服を着ていないんじゃない?」と言えば、「なんで?」と聞かれるし、「裸が好きなんじゃない?」と言っても、「ふーん」という納得のいかなそうな答え。なかなかうまい受け答えができないことが子供の質問には多い。
 すると今日は「洋服もらえるとこんなに喜ぶんだったら、すずも作ってあげる!」と言った。
 折り紙で折ったり、紙に描いた洋服を切った後、小さなぬいぐるみの着せ替え用の洋服も用意してきれいに並べ、「こびとさん喜ぶかな~」と満足そうに眠った。
 そんな娘の様子を微笑ましく思い、朝、起きた時に洋服がなくなっていなかったらがっかりするかな? いや、今日は来なかっただけよ、と言ってあげようかと色々考えていたが私もいつの間にか寝てしまった。

 朝になると、娘が歓喜の声をあげた。
「こびとさん喜んでる!」
 え? まさか、そう思っていると娘が声に出してなにやら読み始めた。
『すずちゃんへ ようふくをたくさんどうもありがとう。とてもうれしいよ。とくにおりがみのようふくがすきだったよ。おれいにくつをプレゼントしたいんだけど、どんなくつがほしいかな? こびとより』
 私は、娘の読んでいた手紙を見てびっくりした。洋服を先にあげて、靴をお礼にもらうという逆パターンだ。娘は何の疑問も持たず早速返事を書いている。五歳というのは柔軟性がある。
『こびとさんへ おてがみありがとう。よろこんでもらえてうれしいです。すずはプリンセスのくつがいいな。 すずより』
 がっつり現実的な靴をお願いしていた。
 こびとさん、どう思うんだろう……と大人の私は思った。

 次の日の朝、娘の欲しかったピンク色のプリンセスの靴がプレゼントされていた。私は驚いて主人に聞いた。
「これ、あなたが買ってきたの?」
「俺が? まさか。仕事が終わる時間にはどこも店は閉まってるだろ。ネット注文する時間なんてないし」
 それはそうだと思った。この一年、主人はほぼ休みなく働いているのだ。それに大抵の父親は幼い子供の足のサイズなんてそう覚えていない。
「すずちゃんよかったね」
 とりあえず私はそう言った。

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