小説

『こびとからのおくりもの』石咲涼(『こびとのくつや』)

「ねえ、ママ。どこかでランチしようよ。おなかすいた」
「そうそう、新しくオープンしたお店がこの辺にあったのよ。確か、カフェと色々な国のおもちゃやさんが入っていたような……」
「あった! あれでしょ?」
 すぐに娘が見つけて指さした。Café、Toyの文字がみえている。最近の子供は英語が身近だからすぐに覚えてしまう。成長ってあっという間だなと嬉しそうな娘を見て改めて感じた。
 それにしても、いつも通り過ぎていただけのお店に入ろうと思うのは気分が違うから? それとも魔法の靴だからだったりして?
 そんなことを思いながら、私はなんだかわくわくしていた。日常からちょっとはずれた感覚は久しぶり。
 お店のドアを開けても、非日常は続いていた。カフェには温かみのある木製玩具が中心にディスプレイされていて、テーブル一つ一つにも愛らしいおもちゃが置いてある。
「いらっしゃいませ。お好きな席にお座りください」と店員さんが優しい笑顔で言ったので、娘は気になったおもちゃのあるテーブルに走っていった。
「これなに?」
 娘がおもちゃを繋がれた紐で走らせると、お尻が光った。
「蛍だ!」
 ゆれる触覚とかわいらしい顔を見ただけではわからなかったけれど、ぽおっと光ったお尻に一気にテンション高く私は答えた。
「ほたる、かわいいね!」
「こんなかわいい蛍のおもちゃあるんだ」
 私はぐるっと店内を見渡した。天井や壁にさまざまな星の木製のオブジェが飾られていて、ところどころに置かれている植物も自然の中を思わせるものだった。
「本物の蛍は夜光るととってもきれいだよ」
 店員さんが声をかけてくれた。
「そうなの? どこにいるの?」
 娘が目を輝かせている。
「水がすごーくきれいなところにいるんだよ」
「そうなんだー本物のほたる見たいね」
「そうだね。見に行こうか」
 そう、するりと私の口から言葉が出た途端、おいしい空気、夜空の星、美しく光る蛍の想像で心がいっぱいになった。
「うん! いこう! ほたる楽しみ!」
 喜ぶ娘とランチをしながら、蛍を見に行く計画を立てた。“こどもとピクニックランチ”というメニューがあって、かわいくラッピングしたサンドイッチや目を引くピックがまた気分をあげてくれた。
 水がきれいな所がどんなところで、木がたくさんあるところをお散歩するとどんどんいい気分になってすごく元気になるんだよ、と話しながら、ずいぶん行っていない大自然に娘を連れていくことが楽しみになった。
 帰りに、初めて来店した人にくれるプレゼントをもらった。それが木製のこびとだったので思わず笑ってしまった。

 家に帰ると、娘はなにやら粘土で作りだし、手紙を書いた。

1 2 3 4 5