小説

『こびとからのおくりもの』石咲涼(『こびとのくつや』)

 蛍の光は優しく、このところ見ていない灯りだった。暗闇と静寂の中ですうっと流れる光に気持ちが落ち着く。「きれいだね~来てよかったね」と娘が繰り返していた。
 主人の顔がとても穏やかで、人間らしい目をしている。綺麗な空気と水は人間にも必要なんだなと体全身で感じた。
 旅の最後に、パパの靴を見ながら「いい靴もらったね」と娘が笑顔で言った。

 ゆっくりとした時間を味わうと、日常に感謝が出てくるから不思議だ。当たり前だと思っていたことにも幸せを感じる。旅行から帰った後も和やかな気分が続いた。
 娘もとても楽しかったようで、旅行のことをお友達のさらちゃんに興奮気味に話していた。するとさらちゃんは言った。
「いいな、うちはパパがいないから。パパに会いたいな」
 それを聞いたすずは、こびとに旅行のお礼を書いた後、もう一通手紙を書いた。
『こびとさんへ さらちゃんが ぱぱにあえるくつ ありますか。 すずより』

 さすがにそれは無理なのではないかと思った。でも魔法の靴ならそれを可能にするんだろうか。私は一人でドキドキした。

『すずちゃんへ おてがみありがとう。パパとおさんぽできてよかったね。すてきなものがみれたんだね、よかった。さらちゃんのくつのことだけど、そのくつだけはむずかしいんだよね。そこは、にんげんが がんばるところだよ。 こびとより』

 そうだよね。亡くなったパパに会える靴はないよね。それは神様の領域だ。
 最後の文の意味は、すずには難しかったようだ。きっと近くにいる大人に向けたことだったんだろうと思った。
 けれど次の日、さらちゃんがニッコニコの笑顔でやって来た。
「すずちゃん、私ね、かわいいこびとのついた靴を履いてパパに会ったよ」 
「なんかね、夢を見たみたいなの。一緒に遊んで楽しかったみたい」
 さらちゃんのママが小声で嬉しそうに言った。
 すずとさらちゃんが、やったね! と喜んでいる。

 これはやっぱり魔法? 
 そう思わずにはいられなかった。
 娘の、こびとさんを喜ばせたいという純粋な想いから始まった不思議な出来事。
 こびとからのたくさんの贈り物を思い出しながら私は幸せな気持ちに包まれた。

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