小説

『あなたとみる世界』小山ラム子(『雪の女王』)

 本人のいないところでこれ以上の詮索はしないことにした。母親はわざわざ「本人にそういうの触れちゃだめだよ」なんてことは言わない。そんなことはしないと自分のことを信じてくれているのだろう。その優しさがうれしかった。
(でもつばきちゃんはどうなんだろう)
そう思うと胸の辺りが締め付けられるようだった。
 それからひまりはつばきにしつこく話しかけなくなった。それを不思議に思ったのか声をかけてきたのはクラスでも目立つ女子だった。
「あの子のこともう諦めちゃったの?」
 学年で二番目に成績のいい知佳は周りからはつばきにライバル意識をもっているなんて言われている。だけどひまりはそうは思わなかった。周りが言う敵意のこもったライバルの響きに疑問を感じているのだ。知佳がつばきに向けているのはもっとさっぱりとした感情だと思っている。
「今考え中なの」
 あの女性に言われた意味をずっと考えていた。勉強のその先とは一体なんなのか。今までのようにしつこく声をかけ続けることがその答えを知る良い手段だとは思えないのだ。
「諦めてるわけではないのか」
「うん。本当に諦めるのはつばきちゃんがそれを望んでないって分かったときだから」
 知佳はふっと噴出してから笑い声を上げた。
「自信あるんだね」
「え?」
「だってそれつばきさんはそう望んでるって思ってるってことでしょ」
 言われた意味を考えてから自分の言葉を反芻し段々と顔に熱が集中するのを感じた。
「そういう自意識過剰なのではなくてね、そんな風に私が勝手に感じてるだけであって」
 慌てふためくひまりの様子に知佳はますます愉快そうに笑った。やっとおさまってから今度はあの女性が見せたのと同様の微笑みを浮かべた。
「ひまりちゃんって一生懸命だよね。それにあの子もそう。一生懸命に勉強してる」
 ひまりは驚いた。知佳が努力していることを知っているからだ。
「知佳ちゃんこそ! 先生に分からない問題聞きにいったりして頑張ってるじゃん!」
「あれは義務みたいなもんなの」
 それがつばきとどうちがっているのかひまりには分からなかった。
「あれ? むしろなんで私が先生に聞きにいってるの知ってるの?」
「数学研究室の掃除してたとき毎日来てたの覚えてたから」
「あそこに掃除当番なんてあったっけ」

1 2 3 4 5 6