小説

『あなたとみる世界』小山ラム子(『雪の女王』)

「ううん、でも先生に個人的に教えてもらったときのお礼で自主的に」
 知佳はもう一度噴出した。ひまりはなぜ笑われているのか分からなかったがその笑いに嫌な感じはしなかった。

「なんで私のことかばったの?」
 聞こえてきた声にひまりは足を止める。それはつばきの声であった。
「かばったんじゃなくて本当のこと言っただけだよ。私が言えば先生達は信じてつばきさんの疑いもすぐに晴れるだろうと思ったし」
 もう一人の声は知佳であった。どうも穏やかな話題ではないらしい。
「まあ助かったけど。でもあんた私のこと嫌いじゃなかったっけ」
「嫌いではないよ。気には食わないけど。つばきさんがそれ以上疑い深くなったらひまりちゃんが悲しむかなって思ったから」
 急に自分の名前が出てきて心臓が跳ね上がりそうになった。どうやらつばきが先生達になにか疑いをかけられてそれを知佳が晴らしたらしい。
 二人の間に沈黙が続く。とても気になったが盗み聞きをするのが心苦しくなりひまりはその場を後にした。
その後、つばきにどう接していこうか迷っていたひまりだが思いもよらない展開から再びつばきと時間を過ごすことになる。つばきが見るからに不良な女子に絡まれている姿を目撃し慌てて間に入ったひまりだったが話を聞いてみると、その女子はつばきに勉強を教えてくれと頼んだらしくそれをつばきが断っているところであった。知佳はどうかと提案したが、数学はあまり得意でないとすでに断られておりそれでつばきの名前が知佳の口からでたらしい。それを聞いてつばきはいやいやながらも承諾した。成り行きでひまりもその勉強会に参加したのだがそこでその女子、莉玖(りく)から印象深い言葉を聞いた。
「小学校のとき毎日同じ服着てるからってバカにされてさ。そんとき乱暴に振舞ったらバカにされなくなって。今でもそれが残ってんだよ」
 莉玖が案外優しい子だと気が付いてから「なんでそんな格好してるの?」と聞いた答えであった。勉強会が終わりお礼を言って莉玖が去った後つばきがポツリとこう言った。
「バカにされたことがなかったらあの子もひまりみたいな子だったかもね」
 再会してから初めての名前呼びだった。
 日直だったひまりがプリントを数学研究室に持っていくと目当ての人の前に莉玖がいた。そのスカート丈はひまりと同じ長さであった。
「あ、ちょうどあなたの話していたのよ」

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