そんなひまりを心配したのはクラスメート達であった。彼女達はつばきの態度を柔らかくしようと優しく声をかけたのだがつばきはそれを拒んだ。最終的に彼女達を遠ざけたのは「勉強の邪魔なんだけど」という言葉であった。
「あの子は頭がいいから私達とはレベルがちがうんだよ。話も合わないって」
そう言った友人に、ひまりは「そんな子じゃないよ」と言いたかった。でもそれは正しくなかった。「そんな子ではなかったんだよ」の方が正しかった。
ある休日、ひまりは意を決してつばきの住んでいるアパートの前に立っていた。なんでもいいから学校の外で話がしたかった。
呼び鈴を押してしばらくしてからドアが開く。ひまりは思わず目をみはった。出てきたのは真っ白なワンピースを着たとても美しい女性であった。
「つばきのお友達?」
かたまってしまったひまりに女性は優しく問いかけた。ひまりが頷くと女性は困ったように微笑んだ。
「今出かけてるの。買い物行ったり図書館寄ったりでいつ帰るのか分からなくて」
「そうですか」
肩を落とし下を向いたひまりだが女性から熱のこもった視線を注がれていることに気が付いた。冷たささえ感じる美貌からその眼差しが放たれていることが不思議だった。
「もしかしてひまりちゃん? つばきがよく話してるの」
「本当ですか!?」
「うん。諦めの悪い奴だって」
再びかたまるひまりに女性は慌てたように言葉を続けた。
「ちがうの、いやな意味じゃなくて。そう言いながら迷惑そうではないの。あ、これも微妙な言い方か」
確かに微妙な言い方であったがその女性が言いたいことは感覚では伝わっていた。そしてその女性がつばきのことを大切に思っているだろうことも。
「つばきちゃんだって諦め悪かったじゃんって伝えておいてください」
疑問に思ったことはしつこく調査を続けていたつばきのことを思い出していた。女性は驚いたように目を開いてから眩しいものを見るかのように目を細めて微笑んだ。
「うん。伝えておく」
そしてひまりに向かって祈るようにこう言った。
「私は勉強しか教えられないの。だからそこから先は思い出させてほしい」
「あの子の両親ね、色々あったの」
母親につばきの家のことを聞いてみると返ってきたのは予想していた内の一つであった。女性は姉と呼ぶには年が離れているように見えたが母親には見えなかった。その妹と言われた方がしっくりくる。
「そっか」