「なんだか面白いことになりそうね。」
四条は雅子とどこか異なる感情を抱いていた。期待に満ちた目でペンとノートを取りだす四条を見て、雅子は不安になった。彼女が感じている事と、自分が感じている事に明に差異があると知ったからだ。
気がつけば周りの同僚達も四条と同じような顔つきでいる。ランポ社がどんな新製品を紹介するのか口々に予想し、小さなディスカッションまで行われていた。
雅子はそんなことより、謎のジャージ男が気になって仕方ない。なぜ皆彼についての話が出てこないのか不思議なくらいだった。
「おはようございます。この度はランポ社の自慢の新作商品を、是非貴社様でお取り扱い願えればと思いやって参りました。」
一同は拍手をしながら、今か今かという期待も彼に送った。
「ご紹介します商品は、今後我々人類にとってなくてはならないものになるでしょう。必ずヒット商品となることをお約束します。」
ランポ社の男は、饒舌に紹介を終えると、さっそく本題を切り出した。
男が一歩前に出ると、緑ジャージの男も一歩前に出る。雅子の違和感は加速していく。そして何の躊躇いもなく、ランポ社の男性はジャージの男を神々しく紹介する。
「大変お待たせ致しました。こちらが弊社独自開発した最新人工知能搭載!お助けロボットです!」
社員達からそれぞれ「おぉ!」だの「わー!」だのといった反応が漏れた。まるで玩具を初めて見る子犬のように、その男を一同が舐め回すようにしばらく眺めた。
「すごいわ…。かなりリアルね。」
四条の高揚した頬が彼女をより美しく見せる。感動しているのか、ペンを持つ手が震えていた。緑色のジャージ男は試作品の為〈ゼロ〉と呼ばれた。話しかければ答えるし会話もする。家事や買い物も学習すれば出来るそうだ。雅子はどう見ても〈ゼロ〉がロボットとは思えなかった。白髪混じりの頭、手の甲に浮き出る微かな血管、呼吸を思わせる胸の動き。見れば見るほど、雅子にとって〈ゼロ〉はただの中年男性だった。それになぜ緑のジャージを着ているのだ。ロボットなら容姿は他にいくらでもあるはずなのに、なぜ彼というモデルなのだ。雅子はじわじわと涌き出る沼のような疑問に足をとられ、一歩も動けない。
「さあ、是非是非!間近でご覧ください!」
ランポ社の男は脇に退け、部屋の真ん中に〈ゼロ〉を残した。
「すっごいっすね!この髭とか超リアル!」