「取り合えず1000体お願いして、後は随時発注しましょうか。」
四条は声にバネが入ったかのように上機嫌な声色でランポ社の男と話している。
周りの人々の反応は、いつまでもいつまでも変わらない。
なぜ皆が疑問に思わないのか、夢なのか、現実なのか、一体どういうことなのか。
混乱する雅子が視線を感じ顔をあげると、無表情の＜ゼロ＞がこちらを見ていた。
雅子の温度は一気に奪われ、鳥肌がたつ。＜ゼロ＞の視線から逃げるように室内を飛び出した。しかし、誰もその小さな変化には気づかなかった。
皆の歓喜する声に背中を押されながら、雅子はとぼとぼと長い廊下を行く宛もなく歩く。オフィスの中がいつになく冷えている。そう感じるのは室温のせいなのか、血の気の引いた体温のせいなのか、もう雅子には分からなくなっている。
廊下の真ん中に緑色のジャージが落ちていた。雅子はソレを拾い上げると、そっと腕を通す。
何が正解なのか、何が真実なのか、もうどうでもいい気がした。
雅子は自分自身の体温だけを便りに、振り返りもせず、ただただ歩いて行った。
