小説

『すべての祈りがあつまるところ』ノリ・ケンゾウ(『陰火』太宰治)

「で、いつまで折ってればいいんだ?」と川端に聞かれ、
「ずっとだよ、とにかく折ってくれ」とオサムが返す。
「いつまでもって、注文も来てねえのにか?」
「いいんだ、折れ折れ! やっさん、とにかく沢山折ってくれ」
「けっ、あほかよ」と言いながら、川端の表情は楽しそうだ。
「折れ折れ! 祈れ祈れ!」
 オサムが調子よく声を上げる。マスジが生涯かけて作った機械が今、動いている。マスジがどんな気持ちでこの折りを完成させたのか、オサムは知らない。知ろうとも思わない。けれどマスジにもかつて祈りがあったはずだ。不真面目なオサムのこと、繁盛しない工場のこと、早くに一人にさせてしまった妻のこと。オサムも祈る。ろくに増えないお金のこと。チュウヤ君とできてるかもしれないミチのこと。死んだマスジのこと。もうすぐ死ぬかもしれない母のこと。祈りは沢山だ。探せば探すほど、祈りは湧きでてくる。
「こりゃあ売れるな。売れる。やっさん、祈りは売れるぞ……」
 この世に溢れている祈りが、すべてこの工場にあつまるところをオサムは想像する。あつまった祈りをオサムが折る。オサムが祈る。
「祈って折って、折って祈る。はは、これはいいコンビだな、字面が似てらあ。商売繁盛間違いなしだ!」
 オサムの威勢の良い声が、折り機の騒音に負けないようにと大きく響く。天まで届く。

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