小説

『道草おばあちゃん』香久山ゆみ(『赤ずきん』)

「どうしておばあちゃんはずっとうちで家族のお世話をするの?」
「どうして?」
 初めて、どうしてと私に訊いてくれた。小さな私がずっと声に出したかったこと。
 でも、答えられなかった。自分で決めた道じゃないから。
「どうしてちぃちゃんはおばあちゃんに質問するのかしら?」
 困り果てた私は言った。
「ちぃ、おばあちゃんのこと大好きだから!」
 孫の真っ直ぐな答えに、目の前が晴れるような気がした。私も、こんな風に真っ直ぐ向き合えばよかったのだ。
「よしなよ、母さん」
「そうよ、どうして今更。引越しだなんて。その齢になって里山で一人暮らしするなんて、無茶よ」
「そうだよ。今の家だとうちからも近いし、何かあったらいつでもすぐに様子を見に行けるし」
 息子はやはり夫に似ている。何かあった時に駆けつけてくれるのは、あなたのお嫁さんでしょう。大変なんだからね。息子達が心配そうに止めるのも聞かず、私は答える。
「私がそうしたいからよ」
 本当はずっとそんな風に生きたかったのだ。自分で栽培した無農薬の野菜を使って、小さな食堂を始めようと思う。赤いちゃんちゃんこを着る齢になって、変かしら。いいえ、ちょっと長い道草を食っていただけ。若い時なら良くて、年を取るといけないことなんて、何もない。私は今、ようやく目的地を見つけた。
「おばあちゃん、かっこいい!」
 孫が輝く目で私を見つめる。どうしてそんなにお目めがきらきらしているの? おばあちゃんのきらきらがうつったのよ。これからこの愛らしい孫の「どうして」には何でも答えてやろうと思う。納得するまで。
「ありがとう。ちぃちゃん、おばあちゃんのおうちまで遊びに来てね」
「うん。すてきなお見舞いもってくね」
「はいはい、お土産、ね。寄り道しちゃだめよ」
 好奇心いっぱいの笑顔が私に向けられる。寄り道してもちゃんと辿り着くのよ。素敵なお土産話を期待しているわ。

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