村長の口から噂どおりの提案が発表される。「おお!」と声があがるなか、「でも石を取り尽くしてしまったらどうするんだ」との疑問もあがる。またたく間に「それは危険だぞ」「子ども達に残す物がなくなる!」とみんなが口々に言い始めるが、それをさえぎるように「それについても考えられている!」と村長は自信満々に手元の紙を見ながら提案の続きを読み始めた。
それは以前、村長の家で王都からの男が言っていたものだった。村長の両脇にいる秘書やお手伝いさん達はそれを聞いてしきりにうんうんとうなずいている。村の人達はポカンと口を開きながらその説明を聞いていたが村人の一人が「なるほど」と言って大きくうなずくと、みんな次々に「さすが王都の人は後のことまで考えているんだな」「いやあ、素晴らしい方法だ!」なんて言い始める。いつの間にか話題はお金の使い道になっていた。これから素晴らしいことをするんだから王都に行ってみんなで遊ぼう、なんて話もでた。それにみんなが賛同していく。そうだ、そのくらい使ってもいいだろう。なんといってもこれからたくさんの金にするんだからと。またある人は「村長えらいぞ!」なんて言葉を飛ばす。それに何人もの人が「村長すごい」「ついてくぞ村長」と続いていく。村長は胸を張って鼻高々だ。
熱狂の渦に圧倒されしばらく声をあげることができなかった。しかし隣りにいた少女の言葉が私を引き戻す。「なんか間抜けだなあ」という、声に笑いを含んだ言葉。いつの間にか私は村長のいる壇上に上がっていた。みんなが驚いた顔をして私を見つめている。私はあっけにとられている村長の手から紙を奪いとった。
「すみません! 私村長のおっしゃったことが理解できないんです! もっと詳しく教えてくれませんか! 例えばこれなんですけど!」
一つ一つ単語を取り上げて質問攻めにする。村長は「いや、それは王都のやり方で」としどろもどろになっていった。
さっきまで大騒ぎしていた村人達が、今度は別のざわつきを始めていた。
「マミがあんな風に言うなんて。あの子は学校で首席だったんだろ?」
「あの子が分からないことなら私達に分からなくても無理ないわ」
「そもそもおかしいと思ってたんだ。あんな意味の分からない方法でお金を増やすなんて」
「もしかしてその王都の男は騙すつもりで来たのではないか」
騙す、というフレーズがでてから空気が一変する。
「そうだったら大変だ! 石だけを持ち逃げされる!」
「私達の大切な資産が!」
「今のままで十分じゃないか!」
「そうだ! ちょっとずつ取っていたから今までやってこれたんだ! 一気に取ったらだめなんだ!」
「たまに金が入るからいいんだ!」
「たまに好きなものが買えるからいいんだ!」
「金を増やすなんて強欲だ!」
「欲に目が眩んだか村長!」
「村長は間抜けだ!」
「そうだ! 村長は間抜けだ!」