小説

『キッズ』ノリ・ケンゾウ(『猿ヶ島』太宰治)

「昨日テレビでリュウのこと見たよ」
「ほんと? どれだろ」
「なんかね、子供っぽい歌をうたってた」
「あー、あれ、僕あれそんなに好きじゃない」
「うそ? すごい楽しそうだったのに」
「だって仕事だもの、笑うのが仕事」
「げー、嘘つきじゃん」
「まあ嘘だけど、でも嘘じゃない。いつもたくさん練習してるから。練習は嘘つかない」
「あ、それ先生が言ってたやつだ。でも難しそう。僕は歌うたうとき、なんだか上手く笑えない」
「オサムは大丈夫だよ。まつ毛長いもん」
「なんでまつ毛?」
「眠たそうなくらいがちょうどいいってこと」
「それも先生が言ってたやつ? 僕がウィンクするときの」
「そう、ウィンクするときの」
 リュウとこんな風に話をするのは楽しくて、僕はそのためにスクールに通っていた。リュウみたいにテレビに出たいとか、ドラマに出て何かをしゃべったりしたいわけじゃなかった。僕はただ、トウキョウにやってきてできた友達と話すのが楽しかったのだ。それがいつの間にか、僕はリュウと二人で「スーパーキッズ」としてデビューすることになった。
 デビューが決まってお家に帰るとお母さんはドアを開けるなり泣きながら僕を抱きしめた。おめでとう、おめでとう、とお母さんは何度も僕をぎゅーっと抱きしめた。こんなにお母さんが喜んでいるのは、嬉しかった。僕はスーパーキッズになったことなんて、ちっとも嬉しくなかったけど、お母さんが嬉しそうなのと、これからはもっとリュウと一緒にいられるってことに関しては嬉しかった。
 デビューが決まると同時に、僕たちの曲ができた。なんだか偉い大人の人が作詞作曲をしたみたいで、お母さんは興奮してた。レコーディングってものが僕は初めてで、スタジオの中で何回も歌ったんだけど、レコーディングってやつは歌の練習とは違ってて、一度うたって終わりじゃなくて、何回も繰り返しうたうし、ときにはワンフレーズしか歌わなかったりしてなんか変な感じだった。レコーディングの次は、ダンスレッスン。僕らのデビューのために、ダンスを完璧にそろえなければいけないらしい。振付けの先生は、難しいよ、ぴったり息を合わせなきゃいけないから、って言ったけど、僕とリュウにとってはそんなに難しいことじゃなかった。僕らはスクールのレッスンのときから二人でぴったりに動きを合わせられていたから。
いよいよ、僕らがデビューするイベントの日がやってきて、幕が上がると見たこともないくらい大勢の人がみんなこっちを見ていて、その大歓声のせいで耳がほとんど聞こえなくなるくらいだったけど、不思議と自分の歌声は完璧だった。でもあとからリュウに聞いたんだけど、あれは僕らの録音した音が流れてるだけなんだって。えー、それって嘘じゃん、とリュウに言ったら、まあ嘘だけど、別に嘘じゃない、とまたいつもの難しいことを言った。

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