小説

『タマコ』洗い熊Q(『支那の画』)

 憧れと共に人として愛すべき存在だと更に感じた。
 その想いを素直に現したくなった。出品のモデルを頼んだのもそうだ。
 自分なりの想いの表現。彼女に伝われたら何より。ミュシャの作品を観て二郎はそう思ったのだ。

 だがこのミュシャへの考察。御本人から笑って「そうだね」と言われるか。
 懇々と熱情を語られて終わるという浅はかな考察ではあるだろう。


 数カ月経って――。
 二郎の作品は広い展示会場に飾られていた。
「こういう所に飾られると、やっぱ何か違うね」と珠子は笑顔で言ってくれる。

 悠々としながら徒然な雰囲気で籐椅子に座る。だが真っ直ぐと向ける視線に毅然と、凜とした意志を感じさせる彼女がいた。
 背景は翡翠を思わせる蒼をイメージしていたが、そのまま白紙に。
 心が無垢な印象が似合うと思ったからだ。
 タイトルはシンプルに「タマコ」と命題した。

 完成した時には素直に称賛してくれたが、展示されるに辺り何か文句の一つもあるかと思ったが。
 彼女はただ嬉しそうに観てくれるだけだ。でも、ただ一言。

「やっぱ“カエデ”の方がよくね?」

 あぁと二郎は思ったが、珠子は意外と恋愛に疎いのかも知れないとも感じた。
 ただこうして二人で彼女が描かれた絵を観れる事に、感謝と淡い幸せを覚えるのだった。

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