小説

『七番目の地蔵』裳下徹和(『笠地蔵』)

 伍助の家に着く前に、六体の地蔵に遭遇した。笠を被り道の端に並んでいる。
 後ろからの風に吹かれたのだろう。笠が前に傾き、顔が見えなくなっていた。一体一体笠に積もった雪を払い、角度を直す。静謐かつ慈悲深い顔が見えるようになった。
 被せられている笠は、伍助が提供したものだろう。なんとも心優しき男だ。
 私は、地蔵達に事件の解決を祈願し、再び歩き出す。
 村外れの伍助の家に着くと、母親のたえが床に伏せており、中年の女性が付き添っていた。
「伍助さんが亡くなってしまったので、私達が代わる代わる面倒みにきているんです」
 そう言って、女性は笑顔を浮かべる。
「たえさん。お坊さんが来てくれたよ」
 そう呼びかけられても、たえは何の反応も示さない。
 付き添いの女性が、悲し気に微笑みながら言ってくる。
「たえさんが調子の良い時に聞いた話だと、伍助さんがお地蔵様に笠を被せてあげたら、お礼に餅をもらったので、二人で食べたそうです。とても楽しかったと言っていました…。たえさん。伍助さんが亡くなったこともわからないみたいです…」
 結局冷たくなった伍助を発見したのは、次の日新年の挨拶に訪れた村人だった。
 話をしながら、女性は涙ぐんでいた。
 わからない方が、幸せなのかもしれない。
 私はたえとの会話を切り上げ、埋葬せずに保管してあった伍助の遺体を検分することにした。
 すき間風吹きこむ寒い土間におかれていたので、遺体の状態は悪くない。
 外傷はない。死因は窒息死で間違いないだろう。
 喉に詰まっていたという餅も保管されていた。細長く伸びた餅が固まっている。
 手に取って調べてみる。一見すると普通の餅に見えた
 念の為、囲炉裏の火で炙った後に、自分のだ液を吹きかけてみる。
 これはただの餅ではなく、殺生餅だ。
 餅はもともと喉につまりやすい食べ物ではあるが、殺生餅は、さらにつまりやすくした、食べ物だ。害獣駆除、暗殺にも使われる。
 これはただの事故ではない。誰かの殺意が働いている。
 村の人と話を聞いてみたいが、なかなか口を開いてもらえなさそうだ。仕方ないので、子供の方から攻めよう。
 村の中央部に戻ると、子供達が外に出て遊んでいた。私に気付き、怖れと好奇心が入り混じった目を向けてくる。
 私は努めて明るく優しい声で言った。

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