小説

『七番目の地蔵』裳下徹和(『笠地蔵』)

 地蔵に笠を被せたおじいさんが、餅を喉につまらせて死んだ。
 この事件を調べる為に、私は雪降りしきる道を歩いている。
 老人が餅を喉につまらせて亡くなる事例は、珍しいものではない。しかし、喉につまらせた餅が地蔵にもらったものだということが問題視されたのだ。
 この話をそのままにしておくと、地蔵の印象が、ひいては仏の印象が悪くなってしまう、ということで、事の真相を探るべく、僧である私が村に遣わされたのだ。
 雪道を歩くのは辛い。だが、他にも私の足を重くしている理由があった。今から訪れる留来(とめるぎ)村(むら)には、昔落武者狩りをして、その金品を奪って生活をしていたという噂がある、いわくつきの村なのだ。
 そして、老人に餅を与えて殺したのは、七番目の地蔵だとも言われているらしい。地蔵菩薩は、六体一組で祀られていることが多い。七番目の地蔵とはいったい何なのだ。
 得体の知れない村に、不可思議な事件を調べに行く。気は乗らないが、僧正様のご命令とあれば、逆らうわけにもいかない。私は重い足を動かした。
 留来村に到着した。簡素な家が点在している。狭い田畑で糊口をしのぐ貧しい村のようだ。
 見かけた村人に挨拶し、村長と死んだ老人伍助の家の場所を尋ねる。教えてはくれたが、その表情から歓迎されていないのはわかる。
 教えられた村長の家を訪れると、村長が戸口に出てきて迎えてくれた。
「伍助のことを調べにきてくれたのだろう。あいつは立派な奴だった。地蔵様に殺されたとか、変な噂が広まっちまったが、すんなりあの世に逝かせてやりてえ。きっちり調べてあげて下せえ」
 口では協力的なことを言っているが、腹には一物あるような気がした。
 私は村長の家を出て、伍助の家に向かうことにした。
 村長の話によれば、伍助は母親と二人暮らしだったそうだ。おじいさんとおばあさんが暮らしていたと聞いたので、勝手に夫婦かと思ったが違っていた。
 妻には二年程前に先立たれ、娘は遠くの村に嫁いでいて、伍助の死の知らせを受け、留来村に向かっている最中らしい。
 ちなみに、娘に伍助の死の知らせを届けに行った男が、道行く先々で噂話しを広めていったと村長はにらんでいるそうだ。余計なことをする者がいたものだ。
 伍助の家は村外れにあるので、少し歩く。
 村の中を歩いていると、家の中から子供達が顔を出し、物珍しそうに私をみつめてきた。
 私が手を振ると、はしゃいで手を振り返してきたが、親に引っ張られて、顔を引っ込めていた。
 大人達はとっつきにくいが、子供達は無邪気なようだ。

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