「ああ、会えなさそうだから切腹しちゃうやつだね? けっこうめちゃくちゃ。あの二人は付き合っていたんだっけ?」
「だね。僕なんかデートもしたことないのに」
「ワタシも」
「ま、アカネさんは屋上から出られないし、僕だって学校の敷地から出られない。デートには無縁の二人だ」
「ふうん」アカネさんは溜息を吐く。「……そっかあ、秋になっちゃうんだね」
アカネさんは少し寂し気にうつむいた。
本人は明確に自覚していないが、なんとなくは感じるようだ。
夏が終わると、アカネさんの姿は次の夏まで消えてしまう。
時期的にはもうそろそろだ。
だが。
「ついでだけどさ、今日は特別なんだよね」
「なにが」
「これ」僕は左手で持って来たものを差し出す。「今夜こそ君を成仏させるんだ」
「マジで?」
それは僕の右腕だった。
僕は右肩へそれを付けてみる。しっくりと収まる。
久しぶりに腕を回したり、拳をにぎったりしてみる。
爽快な気分だった。
「頑張って、校門の前の道路に落ちたままだったのを拾ってきたんだ」
「なんで?」
「アカネさんのためだ」
僕は右手を差し出す。
「でも、でも」アカネさんは困惑している。「だって、それじゃあ」
彼女が言いたいことは判っていた。
「アカネさん、わかっているだろ。ずっと、この屋上にはいられない。……僕もすぐに行くからさ」
少しの沈黙。
優しい風。
夏が終わる。
アカネさんは覚悟をした様子で、左手を差し出してきた。
「タケダくん、ありがとね」
僕は右手でその左手を掴む。
アカネさんは、強く握り返してきた。
僕は幸福だった。
そして、アカネさんは泣いた。
透明で大きな一粒の涙だった。
頬を伝って顎先から落ちた粒が地面に到着する前に、アカネさんの姿は屋上から消え失せていた。
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