小説

『マッチ売りの幸せ』真銅ひろし(『マッチ売りの少女』)

 迷った。父の分はどうしようか。もし帰って来て何もなかったら父は怒るだろうか?いや、どうせパチンコに行ってるんだ、先に見つけた私の方が食べる権利がある。そう心で納得させて袋を開ける。
 冷え切った部屋が徐々に暖かかくなり、出来上がった焼きそばを食べ始める。
「うま。」
 具材は少し余っていたもやしを入れた。
 もやし焼きそば。
 こんな物でも空腹の状態であればなんでもおいしく感じる。
テレビをつける。お笑い芸人がワイワイ騒ぎながらクイズに答えている。
楽しそう・・・。
作り物だとしても、みんな笑顔で楽しそうにクイズに答えている。自分も仲間に入れたらどんなに楽しいだろうかと夢想する。将来はタレントになったら楽しいだろうか?このまま勉強を続ければ、きっとクイズ番組で活躍出来るだろう。
「・・・。」
でも私の顔じゃ無理だ。テーブルの横に置いてある鏡に目線を移す。そこには可もなく不可もなくといった顔が写っている。これじゃあタレントは無理かもしれない、みんな綺麗だし。
「ただいま。」
 父の史明が帰ってきた。建設関係の仕事をしている作業員の父はいつも頭にタオルを巻いている。
「お帰り。」
 父は手も洗わずに冷蔵庫を開けビールを取り出す。
「手洗ってよ。」
「後でな。」
 ドカッと座りプシュッとビールのパルタブを開け勢いよく飲む。
 顔も手も洗わずに、着替えもせずによくもいきなりビールが飲めるものだと感心する。そして作業着からは汗のにおいに混じってタバコの臭いがした。
「うめ。」
「ご飯ないよ。」
「いい。食ってきた。」
「勝ったの?」
「負けた。」
「じゃあ外食なんかしちゃダメだよ。」
「俺の金なんだから何でもいいだろ。」
「・・・。」
 それを言われると何も言えなくなる。そしてこの言葉が一番嫌いだ。なぜ中学二年の自分には働く事が出来ないのだろうと疑問に思う。父に依存しなければ生きていけない自分が情けなく感じる。
「あのさ、ちょっと相談があるんだけど。」
「なんだ。金のかかる相談は無理だからな。」
「・・・。」
 高校の話をしようと思ったがやめておいた。たぶん「そんな金はない。」と言われるのがオチだろう。
「風呂。」
 父は話さない私を気にもかけずに立ちあがり風呂場に向かった。
「ごちそうさまでした。」
 手を合わせ食器をシンクに持っていき、洗う。
「・・・。」

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