小説

『マッチ売りの幸せ』真銅ひろし(『マッチ売りの少女』)

 しかし私はあの物語が嫌いだ。とても悲しい物語で主人公の少女は最後街の片隅で死んでしまうのだ。しかも皮肉な事にその顔はとても幸せそうであった。
「・・・。」
 何故幸せそうなのか?不遇な境遇の少女が、売り物のマッチを擦るたびに大好きなおばあちゃんの幻影に会えたからか?
「・・・。」
 この物語は何が言いたい?
「・・・。」
 人それぞれ幸せの感じ方は違う、とでも言いたいのだろうか?
「・・・。」
 馬鹿げている。そんな最後があってたまるか。救いが全くない。少女は現実に負けたとしか思えない。
「・・・。」
 不遇な境遇から脱しようとしない少女も悪い。
「・・・。」
 私は絶対にそんな事にはならない。
「・・・。」
 絶対にならない。
「あっ。」
 やかんが沸騰し始めた。火を止めカップ麺にお湯を注ぐ。
 3分待ち、食べ始める。
「うま。」
 空腹のお腹にカップ麺を勢いよくかき込んだ。

「ただいま。」
 数時間後、父親が帰って来た。時計を見ると23時を指している。父はいつものようにそのまま冷蔵庫を開けビールを取り出す。作業着からは煙草の煙がした。
「勝ったの?」
「負けた。」
 父はチャンネルをニュースに変え、ぼんやりとつまらなさそうな顔で見ている。
「私、もう寝るね。」
「ああ。」
 父はそれしか言わずにテレビを見ている。
 私は寝室に行く足を止める。
「・・・ねえ、聞きたいんでけど。」
「ああ?」
「幼稚園の時、『マッチ売りの少女』の絵本買って来てくれたでしょ。なんでその絵本だったの?」
「・・・なんだそれ。」
 父はテレビから目を離さず適当に返事をした。
「あっそ。じゃあいい。」
 質問した自分が馬鹿だった。
「ちゃんとお風呂入りなよ。」
「ああ。」

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